中東かわら版

№86 サウジアラビア・イスラエル:パレスチナ代表の西岸地区訪問とその受け止め

 2023年9月26~27日、ナーイフ・ビン・バンダル・スダイリー駐パレスチナ・サウジ代表がヨルダン川西岸ラーマッラーにあるパレスチナ自治政府(PA)を訪れ、アッバース大統領に信任状を奉呈し、マーリキー外相との会談も実施した。スダイリー氏は2020年1月より駐ヨルダン大使を務める傍ら、2023年8月にパレスチナ代表(非居住)に、またエルサレム総領事に任命された。ヨルダン大使を兼任しているため非居住だが、PA誕生以来、即ち1993年のオスロ合意以降、サウジが任命した初のパレスチナ代表となる。

 信任状奉呈に際して、スダイリー代表は東エルサレムを首都とするパレスチナ国家建設に向けて働きかけると伝えた。これを受けてPA側は、同代表のラーマッラー訪問をサウジ・パレスチナ関係における歴史的な前進と好意的に評した一方、イスラエル側も目立った反応を示していない。

 なおスダイリー代表がラーマッラーに入ったのと同日、イスラエルのカッツ観光相一行がリヤドで開催される国連世界観光機関(UNWTO)会合に参加するためサウジに入国し、初のイスラエル外交団のサウジ入国として注目を集めた。イスラエル代表団のサウジ入国は今年7月のパリでの関連会議で合意がなされていた。

 

評価

 サウジ側による前向きな発言により、イスラエル・サウジ間の国交正常化が徐々に現実味を帯びてきた。一方、サウジはパレスチナ問題を放棄するわけではないことを示すため、8月に初となるパレスチナ代表を任命し、先週の国連総会でも二国家解決案(東エルサレムを首都とするパレスチナ国家の建設)にこだわる姿勢を見せた。今回のスダイリー代表のPA訪問は、その念押しといえるものだろう。

 一方のイスラエルには、こうしたサウジの動きを自国にとって不都合なものではなく、むしろサウジがイスラエルとの国交正常化に向けて動いていることを裏づけるものとして、前向きに捉えている向きが強い。またPA側にも、サウジとイスラエルとの接近を(恐らくもはや不可逆と受け止め、ならば)自国の優位に働く可能性を期待しているふしがある。つまりイスラエルとパレスチナのいずれも、自分たちにとって不利な現状に目をつぶっているとの認識で、その見返りをサウジが与える未来を想定している。

 他方、見返りを求めるのはサウジとて同様だ。目下、イスラエルとの国交正常化がサウジにもたらすものとして話題に上っているのは、米国の協力を得てのウラン濃縮施設の設立である。ただしこの見返りを与えることにはイスラエル内部でも批判が上がっており、ネタニヤフ政権としては、サウジとの国交正常化をいかに国全体の利益と位置づけることができるのかが肝要だろう。

 なおサウジ・イスラエルの仲介役を務めている米国については、バイデン大統領が2024年の大統領選で再選を目指す意向を示しており、両国の国交正常化合意をそれに向けた外交成果としてアピールしたい思惑があると思われる。ただし、これが米国内で評価されるのかどうかは、イスラエル同様に不透明である。

 

【参考】

「イスラエル・サウジアラビア:国交正常化合意をめぐる双方からの前向きな発言」『中東かわら版』No.84。

(研究主幹 高尾 賢一郎)

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