中東かわら版

№62 チュニジア:IMF融資協議の停滞下でのサウジアラビアからの財政支援

 2023年7月20日、シハーム・ブーグディーリー財務相とサウジのムハンマド・ビン・ジャダアーン財務相は、サウジアラビアがチュニジアに5億ドルの財政援助を行う旨の覚書に署名した。これにより、チュニジアはサウジアラビアから4億ドルの低金利融資と、1億ドルの無償資金協力を受ける予定である。なお、チュニジアはIMF新規融資を目指し、2022年10月にIMFから19億ドル相当の新規融資を受け取ることに事務レベルで合意したものの、その後にIMF理事会で最終承認が見送られ、現在は融資協議が停滞している。

 ムハンマド・ビン・ジャダアーン財務相は、財政支援に係る今次合意はチュニジアの安定化を支援するサウジアラビアの取り組みの一環であると述べ、サウジ開発基金(SDF)によるチュニジアへの更なる資金提供を行う方針も発表した。

 

評価

 経済状況が深刻化する一方、財政上の頼みの綱であるIMF新規融資の最終承認が遅れる中、サウジからの財政支援は、サイード大統領が待望していた成果である。当初、同大統領は2021年に議会停止を通じてイスラーム主義政党「ナフダ党」を政界から排除した実績をもって、反イスラーム主義勢力の地域潮流を志向するサウジ及びUAEからの資金援助の獲得を目指していた。

 しかし、チュニジアが2022年予算法で見込んでいたサウジからの融資は実行されず、サウジが対チュニジア支援に何らかの条件(IMF合意など)を課しているとの見方が出てきた。その後サイード大統領は、ナフダ党への締め付けを強化し、サウジ主導のシリアのアラブ連盟復帰に賛同したほか、2030年国際博覧会のサウジでの開催を支持することで、財政支援の土台となる二国間関係の強化を積極的に図った。また、サウジ訪問(昨年12月及び今年5月)時にムハンマド皇太子に直談判したと見られ、こうした大統領の取り組みが今般の財政援助につながったと言える。サイード大統領はこの先、他の湾岸諸国にも経済協力を働きかけていくと予想され、特に反同胞団の文脈でエジプトを財政面で支えてきたUAEとクウェイトに期待を寄せている。

 一方のIMFに対して、サイード大統領は財政改革を融資条件に課してきたことに強く反発している。このため、同大統領がIMF新規融資を頼らず、2023年歳出計画を決行していく可能性があり得る。その場合、財政赤字の補填に向けた資金調達は、中央銀行による国債購入と市中銀行の協調融資(シンジケートローン)を通じて行われる見通しだが、債務問題は根本的に解決せず、債務不履行リスクの高まりがチュニジアへの投資を停滞させる恐れがある。

 

【参考】

「チュニジア:IMFとの新規融資で事務レベル合意」『中東かわら版』2022年度No.103。

「チュニジア:大統領がIMF新規融資を拒否」『中東かわら版』No.6。

(主任研究員 高橋 雅英)

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