中東かわら版

№19 チュニジア:ジェルバ島・シナゴーグ近くでの発砲事件

 2023年5月9日、南部ジェルバ島のユダヤ教礼拝所シナゴーグ近くで発砲事件が起き、礼拝者を含む4人が死亡した。チュニジア国営通信(TAP)によると、実行犯はジェルバ島の沿岸警備隊員であり、彼は同僚を殺害して弾薬を奪った後、エル・グリーバ・シナゴーグ周辺で無差別に銃を乱射した。その後、治安部隊によって射殺された。

 チュニジア外務省によると、死亡した礼拝者2人は、フランス人とチュニジア人であった。同日、ジェルバ島では年に1度の巡礼祭が行われており、欧州諸国やイスラエルから数百人のユダヤ人が集まっていた。

図表 チュニジアの地図

(出所)筆者作成

評価

 チュニジアには2500年前よりユダヤ教徒が居住しており、その人口は1956年に約10万だったが、現在は約1300人である。発砲事件が起きたジェルバ島には、チュニジア最大のユダヤ教徒コミュニティ(約1000人)があり、この規模はモロッコのカサブランカ(1500〜2000人)に次いで、アラブ諸国でも2番目である。また、地中海リゾート地があるジェルバ島は、欧州諸国にとって人気の観光地である。

 現時点で犯行動機は特定されておらず、イスラーム過激派の関与は確認されていない。一方、ジェルバ島では2002年4月、シナゴーグ付近でイスラーム過激派の自爆攻撃により、フランス人やドイツ人などの観光客が死亡する事件が起きた。また2018年1月には、ユダヤ人学校にガソリン爆弾が投げ込まれるなど、同島のユダヤ教徒は度々、攻撃対象となってきた。

 この先、今般の発砲事件はチュニジアの観光業に深刻な影響を及ぼすと予想される。観光業はGDPの約14%を占めるほど国家経済にとって重要であり、貴重な外貨収入源である。また外国人観光客の約4割(2019年時)は、欧州諸国からの旅行者である。このため、外国人が犠牲となった今次事件を受け、夏季の繁忙期にチュニジア旅行を敬遠する流れが加速する可能性がある。過去には、チュニスやスーサの観光地で過激派による攻撃が相次ぎ、観光業が不振に陥ったことがあった。物価上昇に伴い経済状況が悪化する状況下、COVID-19の影響から回復基調にあった観光業が低迷する事態となれば、国民生活は経済的苦境に立たされるだろう。

(主任研究員 高橋 雅英)

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