中東かわら版

№17 アフガニスタン:国連のグテーレス事務総長主催会合がドーハで開催

 2023年5月1~2日、カタルの首都ドーハで、国連のグテーレス事務総長主催の国際会合が開催された。今次会合は、グテーレス事務総長が議長を務め、各国(※注)の特使を招きクローズド形式で行われた。ターリバーン代表者は招待されなかった。国連発表によると、今次会合の目的は、ターリバーンの政府承認ではなく、アフガニスタンにおける女性や少女の権利を含めた人権の保護、包摂的な政権成立、テロ対策、及び麻薬対策等を巡り、国際的に一致したアプローチのあり様を議論することであるとされた。会合後、グテーレス事務総長は会見で、現在のアフガニスタンの人道状況は世界最悪である、国民の97%が貧困状態にあり、国民の3分の2が生死の境にあると述べ、ターリバーンによる国連アフガニスタン人女性職員の就業禁止に代表されるアフガニスタンの諸問題を解決するために、今後も同様の会合を開催する予定だと発言した。

 今次会合を巡っては、国連のアミナ・ムハンマド副事務総長が先立つ4月17日、「ターリバーンは明らかに承認を求めており、これは国際社会が有する限られた梃子だ」と発言し、ターリバーンの国際的な承認は慎重にすべきだと主張するメディアや人権活動家から批判を浴びていた。一方、4月27日に開催された日本とUAEが共同ペンホルダーを務めた国連安保理会合では、ターリバーンによる国連のアフガニスタン人女性職員の就業禁止を含む人権侵害を非難する決議が採択されるなど、ターリバーンの行動変容を促そうとする国際的な動きが見られた。

 こうした中、国際会合後の5月6日、ターリバーンのモッタキー外相代行はパキスタンを訪問し、同国のザルダーリー外相、及び中国の秦剛外相と三者外相会談を行った。パキスタン外務省の声明によると、外相らは、アフガニスタンとの政治的関与、テロ対策、貿易、投資、連結性等について協議した。また、秦剛外相は、中国・パキスタン経済回廊(CPEC)をアフガニスタンに拡張する用意があると述べた。

 

評価

 今次会合では、共同声明や議事録等の文書は発出されなかった。ターリバーン代表者が招待されていない点を見ても、今次会合の目的は、諸外国間でターリバーンとの関与のあり方について合意形成を図ることにあったと考えられる。ターリバーンが女子大学生の通学停止や女性の国連・NGO職員の就労を制限するなど、その統治政策が批判を浴びるなか、今次会合が大きな成果を挙げたとはいえない。しかし、ターリバーンとのチャンネルを有する国々の特使が一堂に会し、課題を整理し、将来に向けた議論を行ったという点では、今後の諸外国とターリバーンとの対話に向けた戦略策定において、小さいながらも、意義のある一歩だったといえる。

 他方、アミナ・ムハンマド国連副事務総長の発言から見てわかる通り、国連内部でのターリバーンの認識が実状に即していない可能性があり注意を要する。同副事務総長は「ターリバーンは明らかに承認を求めている」とターリバーン指導部の状況認識を決めつけるかのような発言を行った。しかし、実際のところ、中国、ロシア、パキスタン、イラン、カタル等の国々は、ターリバーンに「事実上の承認」を与えており、ターリバーンはこれらの国々との良好な関係を維持しさえすれば生き残りを図ることができると考えているかもしれない。事実、今次会合をホストしたのがカタルであり、モッタキー外相代行が今次会合直後に訪問したのがパキスタンである点を見ても、依然ターリバーンは頼れるパートナーを有していると考えるのが自然である。このため、ターリバーン指導部の考えや同派が置かれた状況について予断するのではなく、随時発せられる声明や、諸外国との折衝の状況の客観的な分析を通じて、慎重に評価する必要がある。

 

※注:2023年5月1日付『トロ・ニュース』によると、招待された国は、中国、フランス、ドイツ、インド、インドネシア、イラン、日本、カザフスタン、キルギス、ノルウェー、パキスタン、カタル、ロシア、サウジアラビア、タジキスタン、トルコ、トルクメニスタン、UAE、英国、米国、ウズベキスタン(英語名のアルファベット順)。

 

【参考】

「アフガニスタン:ターリバーンが国連のアフガニスタン人女性職員の勤務停止を通知」『中東かわら版』No.5。

「ターリバーン暫定政権の対外関係 ――「事実上の承認」とその具体的な様態――」『中東分析レポート』R22-14。※会員限定。

「アフガニスタン:ターリバーンによる女性の教育・就労への制限を受けて諸外国・機関による働きかけが活発化」『中東かわら版』2022年度No.135。

(研究主幹 青木 健太)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP