中東かわら版

№98 リビア:大統領選挙の実施延期

 2021年12月22日、高等国家選挙委員会(HNEC)は12月24日に実施予定であった大統領選挙の準備不足を理由に、実施日を2022年1月24日に延期することを提案した。今般の大統領選挙は、紛争当事者間での停戦合意(2020年10月)に基づく政治協議「リビア政治対話フォーラム(LPDF)」が取り決めたものであり、紛争解決に向けた重要ステップの一つである。

 しかし12月に入り、大統領選挙の候補者をめぐる混乱が生じていた。カッザーフィー大佐の次男、サイフ・イスラームの出馬は2015年の死刑判決を理由にHNECより取り消されたが、彼の異議申し立てを受けた南部のセブハー控訴裁判所はHNECの決定を覆し、サイフ・イスラームの出馬を承認した。また、西部のザーウィヤ及びミスラータ控訴裁判所は敵対する東部勢力の中心人物、ハフタルの出馬を妨害するため、ハフタルが含まれたHNECの暫定候補者リストの無効化を決定した。そして、トリポリ控訴裁判所もダバイバ国民統一政府(GNU)首相の出馬に対する3件の異議申し立て請求を却下し、彼の大統領選挙への参加を後押しした。

 上記のように、各地の裁判所は政治的権限や経済利益を地元にもたらす候補者を当選させるため、司法措置を通じて支援している。その一方、HNECは候補者資格に関する相次ぐ判決に対応することを余儀なくされ、最終候補者リストを確定できず、その結果、各候補者も選挙運動に着手できない状況が続いている。

 

評価 

 今般、HNECは1月24日の大統領選挙を提案しているが、同日に実施される可能性は低いと考えられる。まず、HNECが各裁判所の異なる司法判断を取りまとめて、妥協点を見出すことは困難である。次に、候補者資格に関する司法プロセスが完了しない限り、HNECは最終候補者リストを発表できず、各候補者も選挙運動を行えない。仮にHNECが選挙キャンペーン期間を設けずに大統領選挙を強行した場合、得票数は候補者の政策目標よりも知名度に左右されることから、選挙の公平性を問題視し、選挙結果に異議を訴える勢力が出てくると予想される。

 さらに、選挙延期は現政府GNUの正当性にも悪影響を及ぼす。GNUは2021年3月に発足し、今年12月の大統領選挙・議会選挙を監督した後、新政府に権限移譲を行う予定であった。しかし、選挙延期に伴いGNUの政権任期は当初計画より延長されることから、GNUの暫定政府としての役割に同意し政権を譲った東西の旧政府、トリポリ拠点の国民合意政府(GNA)と東部政府(ハフタル支持)はGNUの政権存続に反対するだろう。12月22日には、GNA指導部のマイティーグ元副首相とバーシャーガー元内相が2014年の紛争以降初めて東部ベンガジを訪問し、敵対関係にあったハフタルと会談した。同会談で12月24日以降の政治的空白を埋める方法が協議されるなど、GNA指導部とハフタルが急接近していることから、今後、GNAとハフタルが結託して現政府GNUの打倒に向けた動きを加速させる恐れもあるだろう。

 

【参考情報】

<中東かわら版>

・「ハフタルが大統領選挙への立候補を表明」No.83(2021年11月17日)

 

<中東トピックス>【会員限定】

・「大統領選挙への立候補表明をめぐる対立」T21-08(2021年11月号) 

(研究員 高橋 雅英)

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