中東かわら版

№70 チュニジア:ナジュラー・ブーデン内閣の発足

 2021年10月11日、サイード大統領はナジュラー・ブーデン首相及び閣僚の任命に関する大統領令に署名した。7月25日のマシーシー首相解任以降、政府不在の状況が約2カ月続いていたが、今回の任命により、政府空白の期間が終了した。ナジュラー・ブーデン首相は、政府の最優先事項は汚職対策であることを強調した。また、サイード大統領は新政府の宣誓式で、過去に実施した国民対話とは異なり、全てのチュニジア人が関わる「真の国民対話」の枠組みを近日中に構築する方針を示した。

 ナジュラー・ブーデン内閣では全ての閣僚が政党無所属の実務者である。閣僚リストは、以下のとおりである。

 

表 ナジュラー・ブーデン内閣の閣僚リスト

首相

ナジュラー・ブーデン・ラマダーン

前チュニス国立工科大学教授

法相

ライラ・ジファール

元国有資産・不動産問題相、元ナブール控訴裁判所長

国防相

イマード・マンミーシュ

元国連及び国際開発法機構(IDLO)の汚職対策専門家

内務相

タウフィーク・シャルフッディーン

元内相、サイード大統領のスーサ県選挙対策調整員

外務・移民・在外チュニジア人相

ウスマーン・ジャランディー

2020/9~

財務相

シハーム・ブーグディーリー・ナムシーヤ

元財務省税務調査・税法局長

経済・企画相

サミール・サイード

元オマーン開発銀行最高執行責任者

社会問題相

マーリク・ザーヒー

元チュニジア学生総同盟(UGET)活動家、サイード大統領のマヌーバ選挙区選挙対策調整員

産業・鉱業・エネルギー相

ナーイラ・ヌウィーラ・グーンジー

前チュニジア・テクノパーク協会長

貿易・輸出発展相

ファディーラ・ラーブヒー・ベン・ハムザ

前貿易省研究・経済競争部長

農業・水資源・水産相

マフムード・イルヤース・ハムザ

元チュニジア国立農業学院(INAT)所長

保健相

アリー・ムラービト

軍医官

教育相

ファトヒー・サラーウティー

元教育相、元チュニス・エル・マナール大学長

高等教育・科学研究相

ムンシフ・ブークシール

前チュニス工学研究準備研究所(IPEIT)教授

青年・スポーツ相

カマール・ディキーシュ

元青年・スポーツ相、元チュニジアオリンピック委員会理事

通信技術相

ニザール・ベン・ナージー

元チュニス高等通信学校研究員

運輸相

ラビーイ・マジーディー

元国連開発計画(UNDP)法律専門家

設備・住宅相

サーラ・ザアフラーニー・ザンザリー

元設備・住宅省目標管理部長

国有資産・不動産問題相

ムハンマド・ラキーク

前チュニス・エル・マナール大学教授、弁護士

環境相

ライラ・シーハーウィー

前カルタゴ大学教授、元暫定憲法調査機構委員

観光相

ムハンマド・ムアズ・ベルハシーン

前国家観光局(ONTT)事務局長

宗教問題相

イブラーヒーム・シャーイビー

イスラーム法学者

家族・女性・子供・高齢者相

アマール・ベルハージュ

前マヌーバ大学教授

文化問題相

ハヤート・キタート・ギルマーシー

前アラブ連盟教育科学文化機関(ALECSO)事務局長

雇用・職業訓練相

ナスルッディーン・ナシービー

前チュニス行政裁判所判事

(出所)国営通信「TAP」など各種情報をもとに筆者作成。

 

評価

 新政府の宣誓式は議会承認後に行うことが慣習であるが、今回は閣僚任命後に実施された。つまり、7月下旬より議会が停止する中、サイード大統領は議会での信任投票を経ずに大統領令のみでナジュラー・ブーデン内閣の発足を実現させた。

 また、閣僚人事については、サイード大統領と近い関係にある人物が入閣している。ジファール法相やシャルフッディーン内相などは大統領・首相間の対立を理由にマシーシー前首相が今年初めに解任していたが、再登用された。また、サイード大統領が7月下旬に執行権を掌握し、一部の閣僚を解任した後に大臣代行に就任したシハーム・ブーグディーリー財務相やムラービト保健相も続投となった。こうした人選と議会承認無き内閣発足のプロセスの背景には、首相任命時と同様に、大統領に忠誠心の高い人物を起用することで、大統領が政権運営にも直接介入できる現在の体制を維持する狙いがあると言える。

 チュニスで大統領支持派、反対派の双方によるデモが活発化する現状下、サイード大統領が実施方針を発表した国民対話の実施方法が注目される。過去、2013年に与野党間の対立激化により政治的混乱に陥った際、チュニジア労働者総同盟(UGTT)などの市民団体が仲介役として国民対話を実施し、危機を脱した経緯がある。その一方、サイード大統領は大統領権限の拡大を目的とした憲法改正を目指すため、国民対話を通じて改憲への道筋をつくる可能性も考えられる。その場合、反大統領勢力は国民対話に応じず、抗議デモを通じて大統領に更に圧力を与えようと動くことが予想されるため、国民対話が順調に進むとは考えにくい。

 

【参考情報】

<中東かわら版>

・「チュニジア:新首相の任命」No.67(2021年9月30日)

(研究員 高橋 雅英)

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