中東かわら版

№99 パレスチナ:アリカートPLO執行委員会書記長兼交渉局長の死去

 2020年11月10日、サーイブ・アリカート(エラカート)PLO執行委員会書記長兼交渉局長が、新型コロナウイルスへの感染が原因で死亡した。65歳だった。同氏は10月18日に感染による重症でエルサレムの病院に入院したと報道されていた。

 アリカート氏は、1990年代、2000年代のイスラエル・パレスチナ間交渉において、パレスチナ側の代表団の中心として、またアラファート故PLO議長の右腕として、イスラエル、米国、EU、国連と渡り合った和平交渉の象徴的人物である。アリカート氏が関わった国際交渉には、マドリード中東和平国際会議(1991年)、オスロ合意(1993、1995年)、アナポリス中東和平国際会議(2007年)などがある。アリカート氏死去に際して、茂木外務大臣、アラブ諸国の首脳や外相、アラブ連盟事務局長、国連中東和平交渉特別調整官、EU外務・安全保障政策上級代表などから弔意が表明されている。

 

評価

 奇しくも、アリカート氏が死亡した日とアラファート故PLO議長の命日(11月11日)は1日違いであった。パレスチナ独立国家の樹立を目指した国際交渉の中心的、象徴的人物は、アラブ諸国がイスラエルと国交正常化で合意し、パレスチナが孤立化する中で、新型コロナウイルスに感染して死亡した。パレスチナにとって、イスラエルや諸外国と太いパイプを持つ人物をこの時期に亡くしたことは、政治的にも精神的にも大きな痛手であるだろう。

 UAE、バハレーン、スーダンがイスラエルとの国交正常化を選択した現在、パレスチナの国際的立場は弱まっている。パレスチナの大義である「イスラエルの占領を終わらせ、パレスチナ独立国家を樹立する」という目標を支持する国々は存在するものの、その実現に向けて実質的な外交努力を行う国々は、今、決して多いとは言えない。

(上席研究員 金谷 美紗)

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