中東かわら版

№84 イラン:新型コロナウイルス対策事情(「第3の波」の襲来)

 イランでは新型コロナウイルス(COVID-19)の日別感染者・死者数が減少傾向を示していたが、2020年9月半ばから顕著な感染拡大が続く「第3の波」に直面している(図1、2を参照)。イランでは本年5月に「第2の波」が到来したものの、本年7月にイラン全国で公共の場でのマスク着用義務付けを含む厳格な健康指針の遵守が呼びかけられ、それまで一日当たり2500名を越えていた日別感染者数を1642名(8月31日)にまで抑え込んだ。

 しかし、本年9月に入り「第3の波」が始まると、9月18日には日別感染者数が3049名に増加し、10月1日には3825名を記録するに至った。日別死者数をみても、9月1日には101名まで抑え込んでいたものの、10月1日には211名と倍増した。

 感染の再々拡大を受けて、10月3日にロウハーニー大統領はCOVID-19対策タスクフォース会合で、マスクの着用を含む健康指針に従わない者には罰則を科す考えを示した。また、同3日、首都テヘランのCOVID-19対策タスクフォースは、大学、図書館、モスク、博物館、映画館などの公共施設の1週間(10月3日から9日まで)の閉鎖措置を講じると述べた。

 

図1 イランにおけるCOVID-19の日別感染者数の推移

(出所)保健省発表をもとに筆者作成。

 

図2 イランにおけるCOVID-19の日別死者数の推移

 

(出所)保健省発表をもとに筆者作成

評価

 イランで感染拡大の「第3の波」が襲来した背景として、8月30日に行われたシーア派の宗教行事アーシューラーが影響した可能性が挙げられる。国民の多くがシーア派の同国では、7世紀に第3代イマーム・フセインがウマイヤ朝の大軍によって蹂躙され、殉教した故事にちなみ、哀悼のための大規模な行事が各地で行われる。例年と異なり、本年のアーシューラーにおいては、政府は人々に対し密集状態を防ぐよう呼びかけたが、SNS等を見る限りでは活発な都市間移動が行われ、多数の密集状態での行事も行われた模様である。そのおよそ2週間後から感染の再々拡大が始まっていることは、偶然ではないだろう。

 COVID-19感染拡大は、米国からの厳しい経済制裁で疲弊する経済に追い打ちをかけており、その動向は政治・経済・社会の広範囲にまたがるもので注目を要する。特に9月下旬以降、通貨リアルが暴落しているにもかかわらず中央銀行が為替介入できない状況は、イラン財政が逼迫していることを示している。制裁とCOVID-19の二重苦に喘ぐ国民の不満が蓄積されれば、今後、政府に対する抗議デモのような形で怒りが噴出する恐れがある。

 

【参考情報】

*9月30日発売の『中東研究』最新号(特集「米国核合意離脱後のイラン」、第539号)では、2018年5月に米国がJCPOAを離脱した後のイランをめぐる情勢について、多方面から分析しています(定価:本体2,000円+税 ※送料別)。

 

*10月12日の中東情勢オンライン講演会「大国間の地政学的競争の中のイラン核問題」(秋山信将一橋大学教授)において、大国間の地政学的競争の文脈の中でのイラン核問題について発表が行われる予定です(※10月7日申込締切)。

 

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

・「イラン:新型コロナウイルス感染拡大の背景と影響」『中東かわら版』2019年度No.200

・「イラン:新型コロナウイルス対策事情」2020年度No.5

・「イラン:新型コロナウイルス対策事情(モスクでの集団礼拝の再開)」2020年度No.14

・「イラン:新型コロナウイルス対策事情(規制再強化の動き)」2020年度No.42

 

 <中東分析レポート>【会員限定】

・「イランにおける新型コロナウイルス感染拡大の諸要因」R20-01

(研究員 青木 健太)

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