中東かわら版

№148 アフガニスタン:大統領選挙暫定結果を巡る抗議デモの発生

 2019年11月29日、アブドッラー候補(現行政長官。タジク人、但し父親はパシュトゥーン人)の支持者が首都カーブルで大規模な抗議デモを行った。デモ隊は、独立選挙委員会(IEC)は中立ではなくガニー候補(現大統領。パシュトゥーン人)に肩入れしていると批判し、約30万票の不正疑惑票の無効化を訴えた。抗議デモには、アブドッラー陣営のファラフマンド第一副大統領候補(ウズベク人)、サーダティ第二副大統領候補(ハザーラ人)も参加した他、支持者のハリーリー元第二副大統領(ハザーラ人)、モハッケク第二行政副長官(ハザーラ人)ら有力政治家も参加した。暴力沙汰には発展せず、全体として平和裏に行われた。12月1日にも、北東部バグラーン州、及び北西部ファーリヤーブ州において、アブドッラー陣営による抗議デモが行われた(12月1日付『アフガニスタン・タイムズ』)。

 これに対して、11月30日、IECは、票の再集計・監査が終了しなければ暫定結果発表を行わないと発表した。

 先立つ11月26日、アブドッラー陣営は、もし11月30日までに約30万票が無効にならなければ全国で抗議デモを行うと警告していた。同日の選挙集会で、ファラフマンド第一副大統領候補は、もし不正票が無効になれば自陣営の得票率は51.89%で勝利は確実だと発言した。

 

図表1.大統領選挙暫定結果に関連する主な出来事

月日

主な出来事

9月28日

大統領選挙投票日

10月19日

暫定結果発表が予定されていたが、延期された。

11月9日

IECが、投票所8,494カ所で票の再集計・監査を開始した。これに対し、アブドッラー陣営はオブザーバーの派遣をボイコットした。

11月14日

暫定結果発表が予定されていたが、再延期された。

11月26日

アブドッラー陣営は、約30万票が無効にならなければ全国で抗議デモを行うと警告した。

11月29日

アブドッラー陣営は、カーブルで大規模な抗議デモを行った。

11月30日

IECが、票の再集計・監査が終了しなければ暫定結果発表を行わないと発表した。

12月1日

アブドッラー陣営は、北東部バグラーン州、北西部ファーリヤーブ州で抗議デモを行った。

(出所:公開情報を元に筆者作成)

評価

 抗議デモ発生の争点となっているのは、約30万票の不正疑惑票である。IECが発表した総有効票数は184万3107票だが、この内、約30万票(約16%)が不正票だとアブドッラー陣営は見做している。このため、アブドッラー陣営は、これら不正疑惑票の無効化をIECに要求するとともに、IECがガニー陣営に肩入れしていると非難し、IEC地方事務所7州での票の再集計・監査過程を妨害している。一方、IECは、法律に基づき、票の再集計・監査が完了しなければ暫定結果を発表しないとしており、両者の立場は真っ向から対立している。

 アブドッラー候補が強硬姿勢を示す背景には、以下の3点が考えられる。第一に、アブドッラー候補はIECを全く信用していないことに加えて、自らが過半数を制している確信を持っていると考えられる。選挙法第14条3項は、大統領がIEC委員を任命すると規定しており、現在のIEC委員を任命したのがガニー候補その人である。加えて、ファラフマンド第一副大統領候補の発言を見る限り、アブドッラー陣営は漏洩された情報など何らかの根拠に基づき、不正票さえ無効化されれば直ちに勝利が確定すると確信している模様である。第二に、アブドッラー候補が、自らの支持者から突き上げをくらっている可能性がある。アブドッラー候補は出馬に当たり、多くの政治派閥、民族、部族から選挙協力を得ているが、その見返りには当選後の利権配分の約束が必要だったと見られる。敗者は一切の利権の恩恵に与ることができないため、是が非でもここで踏み留まらなければならない内情がある。第三に、アブドッラー候補は、2009年、2014年大統領選挙でも、票の水増しなどの不正疑惑によって勝利を阻まれ、苦汁を味わった経験がある。今回は一歩も譲歩できないという強い個人的思いも、今回の強硬な対応に影響を与えている可能性がある。

 各候補が政策論争などせず、自身の権力基盤の維持・拡大にしか関心がないようにも受け止められる現状では、今後も国民不在の政治が続くと思われる。こうした不安定な内政により、最も利するのは虎視眈々と勢力拡大を窺う反政府武装勢力ターリバーンであろう。同時に、現在、国内に中立と見なされる行為者が不在の中、依然として隠然とした影響力を持つカルザイ前大統領が、この機に乗じて権力への復帰を画策する可能性も排除されない。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

・「アフガニスタン:大統領選挙前の動向」『中東かわら版』No.102

・「アフガニスタン:トランプ米大統領がターリバーンから交渉の主導権を奪取」『中東かわら版』No.147

 

*12月11日の中東を知るセミナー「アフガニスタン政治の推移、特徴、展望~迷走する2019年大統領選挙と和平プロセス~」(研究員 青木健太)において、最近のアフガニスタン情勢について発表が行われる予定です。

(研究員 青木 健太)

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