中東かわら版

№133 アルジェリア:大統領選挙立候補者リストの発表

 2019年11月9日、憲法評議会は独立選挙国家機構(ANIE、選管)が同2日に発表した大統領選挙(12月12日予定)立候補者5名を承認した。23名がANIEに立候補を届け出たが、同機構が資格審査を経て5名の立候補を認めていた。 

 本来、アルジェリアの大統領選挙は4月に予定されていたが、ブーテフリカ大統領の立候補に反対する抗議デモが拡大したために延期され、同大統領の辞任に至った。その後に成立した暫定政権は7月に改めて選挙を実施すると発表したが、立候補を届け出た者が失格とされたために選挙は再び延期となった。これを受けて、暫定政権の実質的な最高権力者であるガーイド・サーリフ副国防相兼参謀総長が速やかに大統領選挙を実施するべきと主張し、12月12日の実施が決定された。

  •  大統領候補者

アブドゥルマジード・タブーン

(1945年11月生)

元首相(2017年5-8月);住宅・都市相(2012-2017)

アリー・ベンフリース

(1944年9月生)

自由前衛党党首;元首相(2000-2003);元FLN書記長;2004年、2014年大統領選挙立候補

イッズッディーン・ミーフービー

(1959年1月生)

民主国民連合(RND)暫定党首;元文化相(2015-2019)

アブドゥルカーディル・ベングリーナ

(1962年1月生)

国民建設運動党首;元観光相(1997-1999)

アブドゥルアジーズ・ベルイード

(1963年6月生)

未来戦線党党首;元FLN中央委員会委員;2014年大統領選挙立候補

 

  • 主な大統領立候補条件

[憲法第87条、2016年選挙法第139条]

‒ 外国籍を保有していない
‒ 出生時からアルジェリア国籍のみを保有し、両親ともに出生時にアルジェリア国籍を保有している
‒ イスラームを宗教とする
‒ 選挙時に満40歳に達している
‒ 市民権および政治的権利を完全に享受している
‒ 配偶者は出生時からアルジェリア国籍のみを保有していることを証明する
‒ 立候補時に少なくとも10年間継続してアルジェリアに居住していることを証明する
‒ 1942年7月以前生まれの者は、1954年11月1日革命に参加していることを証明する
‒ 1942年7月以降生まれの者は、両親が1954年11月1日革命に反対する活動を行わなかったことを証明する

 

[2016年選挙法第142条(2019年改正)]

‒ 有権者登録済みの市民5万人以上の署名を提出する。署名は、25県以上かつ1県あたり1,200人以上を集める。

 

評価

 12月の大統領選挙は、2月に始まった反政府抗議デモがもたらしたブーテフリカ政権終焉の延長線上にある。2011年の「アラブの春」から8年が経ち、アルジェリアにも変革の波が到達したかと注目を浴びた。しかし、次の大統領選挙がアルジェリアに民主化という根本的変化をもたらすかというと、それは楽観に過ぎると言わざるをえない。ブーテフリカの大統領辞任から始まり、暫定政権による新政府樹立に向けた現在の政治過程が、ガーイド・サーリフ副国防相兼参謀総長率いる軍部によって主導されているからである。政治改革案を協議するために設置された国民対話の運営、また大統領選挙日程の決定は、ガーイド・サーリフ副国防相兼参謀総長が実質的に決定し、抗議デモ側の主張は排除された。抗議デモ側は、既存の支配エリートが主導する大統領選挙は腐敗した支配エリートを再生産するに過ぎないとして、大統領選挙の実施に反対していた。

 これに対して、ガーイド・サーリフ副国防相兼参謀総長は、早期に大統領選挙を実施し、新大統領のもとで新しい政府を樹立することこそが、政治・経済の安定化にとって重要であると主張していた。新大統領を選出する政治過程を軍部が掌握することで、軍部の既得権益(政治・経済への絶大な影響力)を守る新大統領を生み出せるからである。そのためには、新たな暫定政権のもとでまずは憲法改正や法改正を行うべきという抗議デモ側の主張を退ける必要があった。

 同時に、野党の多くが、軍部が主張する大統領選挙の早期実施を支持したことは注目に値する。このことは、アルジェリアの野党の多数派が、体制に真の改革を要求しない「体制内野党」であることを意味する。また、こうした野党の軍部支持により、根本的な変革を求める抗議デモ参加者は政治過程の完全な周辺に追いやられ、ポスト・ブーテフリカ体制の形成に影響を及ぼすことができなくなった。

 上記5名の大統領候補者はいずれも「体制内野党」であり、軍部を最高意思決定者に冠する現政治体制に深刻な脅威を与えない人物といえる。だからこそ、ANIEと憲法評議会の審査を通過できた。次期大統領選挙では、軍部が最も軍の利益を代表できると判断した人物が勝つであろう。ベングリーナは穏健イスラーム主義の国民建設運動党の党首であるため、最も勝利の可能性が低いかもしれない。しかし、重要なことは誰が勝つかではなく、新大統領は軍部の代理人に過ぎず、ブーテフリカ時代とほぼ変わらない軍部主導の体制が続くということである。

(研究員 金谷 美紗)

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