№69 チュニジア:シブシー大統領の死去、大統領選挙の前倒し
2019年7月25日、バージー・カーイド・シブシー大統領が死去した。92歳。「アラブの春」によるベン・アリー政権崩壊後、2014年に初の民主的な選挙で大統領に選出された。6月27日に健康状態の悪化により軍病院に搬送されたが数日後には退院し、職務に復帰した様子が公開された。しかし7月24日に再び入院していた。
憲法第84条では、共和国大統領が死去した場合、憲法裁判所(※未設置。現在は「暫定憲法調査機構」が代行している)が大統領職の空位を認定し、これを国会議長に報告した上で、国会議長が45日以上90日以内の期間で共和国大統領職を一時的に担うと規定されている。これに基づき、25日、ムハンマド・ナーシル国会議長が暫定大統領に任命された。また、暫定大統領の任期が90日以内であることから、独立最高選挙機構(選管)は大統領選挙日程を当初の11月17日から9月15日に変更すると発表した。大統領選挙への立候補申請は8月2日から、選挙運動は9月2日から始まる見通しである。
評価
チュニジアは大統領と首相が執行権を分有する統治制度(準(半)大統領制)を採用しているため、大統領が国政の政治決定に関与する程度が大きい。その意味で、象徴的な大統領職をおく国とは異なり、大統領選挙は大きな意味合いをもつ。
現在のチュニジア内政は、連立与党のチュニジア呼びかけ党とナフダ党、そして前者から分離結成されたタヒヤ・トゥーニス党(党首はシャーヒド首相)が互いに対立する構図となっており、大統領選挙と議会選挙に向けて候補者選定や政党間の選挙連合交渉が活発化している状況である。シブシー大統領が死去した現時点で大統領選挙への出馬を明言している人物にはジバーリー元首相(元ナフダ党)、マルズーキー元大統領(チュニジア意思運動党)がいるが、ガンヌーシー(ナフダ党党首)、シャーヒド首相(タヒヤ・トゥーニス党党首)も有力候補と見られている。前倒しとなった大統領選挙に向けて、各政党は急いで大統領候補を擁立していくだろう。
チュニジアは民主体制への移行過程にあった2011年から2013年にかけて、世俗派とイスラーム主義者との間で深刻な政治の不安定化を経験したが、その後、ナフダ党が政治的イスラームの実現を放棄したこともあり、全ての政治勢力が民主主義を標榜している。政党間対立は著しいものの、次期大統領選挙も民主主義の枠内で行われ、政治過程が混乱するような状況には陥らないと思われる。
(研究員 金谷 美紗)
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