中東かわら版

№43 イラン:米国が石油化学セクターに対する制裁を発動

 6月7日、米国財務省は、イスラーム革命防衛隊(IRGC)への財源を断つことを理由に、イランの石油化学セクターに対する制裁を発表した。対象となったのは、同国石油化学持株会社最大手のペルシアン・ガルフ石油化学工業(PGPIC)及びその関連会社で、IRGCの経済・工学部門であるハータモル・アンビヤー(Khatam al-Anbiya)を支援したことが理由とされている。同省外国資産管理室(OFAC)によれば、PGPIC を含む33社が新たに特別指定国民(SDN)リストに加えられ、掲載済みの7社の情報が更新されている。

 

評価

 今般の制裁は、米国のイランに対する最大圧力キャンペーンの一環であると考えられる。米国は今年4月より、IRGCの外国テロ組織(FTO)指定イラン産原油の禁輸免除措置の撤廃、中東への空母派遣、鉄・アルミニウム・銅セクターへの制裁など、イランへの圧力を強めてきた。またこれと併せて、フジャイラ沖でのタンカー襲撃事件(第1報第2報)やサウジのパイプラインへの攻撃について、イランにその責任を求めるような動きを牽引している。今次の追加制裁もこうしたイランへの締め付けを強化する動きの一つであろう。だが、最大の制裁(第1弾第2弾)は既に昨年発動済みのため、こうした制裁はイラン経済への影響がほとんどなく、象徴的な意味合いが強いとする見方が大半である。

 だが、今般の制裁については、現在の動きに影響を与えるものと考えられる。6月2日にポンペオ米国務長官が前提条件なしでの交渉を提示していたが、今般の制裁を受け、交渉を求めるような動きは止まることになるだろう。8日、外務省のモウサヴィー報道官が「米国の姿勢が虚偽であったと証明されるのに1週間もかからなかった」と非難したように、イランは一貫しない米国の言動に更に不信感を強めている。

 また、この影響は日本にも及ぶことになるだろう。6月12~14日に安倍首相及び河野外相のイラン訪問が予定されており、米・イラン関係への仲介に向けて期待が高まっていた。このタイミングでの制裁はイラン側の態度を硬化させることに繋がるため、会談には細心の注意が必要となってくる。加えて、この度制裁対象とされたPGPICは、イラン核合意(JCPOA)成立後にイラン市場に参入した日本企業の多くが関わったことのある重要企業である。昨年11月の期限までにほとんどの企業がイランから引き揚げたとはいえ、この報は各界の関係者に重く受け止められている。米国はイランへの締め付けに腐心するあまり、国際社会にもネガティブな影響を与えているように見受けられる。

 

【参考情報】

*現状を打破するためのイランの動きと、湾岸諸国における「イラン包囲網」の動きについては、『中東トピックス』(会員限定)をご参照ください。

・中東トピックス(2019年4月号)No.T19-01

 「3.イラン:周辺各国との協議が活発化」

 「4. サウジアラビア:イラン包囲網は堅調か」

・中東トピックス(2019年5月号)No.T19-02

 「3. イラン:ザリーフ外相の諸国歴訪」

 「6.GCC:緊迫する域内情勢とサウジの攻勢」

*中東情勢講演会(6月7日)において、現在の米国、サウジ、イランのスタンスが確認され、今後の展望について考察が行われました。

(研究員 近藤 百世)

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