中東かわら版

№17 イスラエル・アメリカ:トランプ政権公認のイスラエルの地図

 4月16日、米国のグリーンブラット外交交渉特別代表は、米国の地図システムを更新し、同国政府公認のイスラエルの地図を作成したことをツイッター上で発表した(画像はページ下部)。この地図によれば、ゴラン高原と東西の区別が書かれていないエルサレムがイスラエルの領土として描かれている。西岸地区、レバノンとの境界線については、1949年停戦ラインに沿っており、ガザ地区との境界は1950年の停戦ラインとなっている。またイスラエル・シリア間の境界は1974年の停戦ラインに沿っている。

 さらに、地図の右下には以下のような文言が記載されている。

・現状、イスラエルに占領されている西岸地区は、「イスラエル・パレスチナ暫定合意」(注:通称オスロⅡ)の対象であり、恒久的地位は今後の交渉によって定められる。

・ガザ地区の地位は、最終地位交渉の議題であり、今後の交渉によって解決される。

・米国は、イスラエルの定義する特定の境界線に関して立場を示すことなく、2017年にエルサレムをイスラエルの首都と認定した。国境線の提示は必ずしも権威づけられる必要はない。

 

評価

 イスラエルの各種メディアは今次の発表を概ね肯定的に報じているものの、慎重な立場を取っているようである。特に『ハアレツ』紙は、今回の地図で西岸地区がまだイスラエルの公式の領土になっていないことに注目している。また、国際社会はゴラン高原に対するイスラエルの主権を認めていないが、ヒズブッラーとイランの支援を受けた民兵を含むシリア政府側の軍隊が、定期的にシリア側のイスラエル・シリア間の境界沿いで反体制派と衝突しているため、(ゴラン高原の)帰属の問題が複雑になっていると評価している。

 他方、西岸地区やガザ地区に関する文言には注目せず、ゴラン高原の承認に注目したメディアが複数ある。例えば、『The Times of Israel』紙は、今般の地図の発表をネタニヤフ首相の西岸地区の併合の発表に資すると報じている。さらに、この地図を用いている米国中央情報局(CIA)のワールド・ファクトブックのイスラエルに関するページで、東エルサレムとゴラン高原がイスラエルの占領下にあると記述されていることを指摘している。ここから、ゴラン高原に対するイスラエルの主権承認をめぐり米国が一枚岩でないことに同紙が注目している様子が伺える。

 さらに、『イスラエル・ハヨム』紙(親イスラエル政府)は、米国が初めてゴラン高原をイスラエルの一部とする公式地図を発表したと報道し、イスラエルが1967年の第3次中東戦争でシリアから解放し、国際社会からの承認を得ない中で1981年に併合したことを補足している。こうした報道は、安全保障上の観点からゴラン高原がイスラエル領土であることを当然視、ないしは好ましく思うイスラエル世論と同調するものである。総選挙が終わり、ネタニヤフ氏を首相候補に組閣が行われることが確実視される中で、こうした報道は同氏への支持を後押しするものとなるだろう。

 今次の地図の発表は、3月25日のトランプ大統領によるゴラン高原に対するイスラエルの主権承認の文書発行から一歩進み、イスラエル領としてのゴラン高原を既成事実化する試みであると言えるだろう。既成事実化という手法は、米国との特別な関係の下で内政では西岸地区やガザ地区での入植地の建設、外交では近年のアラブ諸国等との関係構築ですでに見られている。こうした既成事実を積み重ねることでイスラエルが自国の安全を確保し、また国際的な承認を経ずに領土を拡大してきたのに対し、アラブ諸国や国際社会が実質的な対抗措置を講じられていないことに鑑みれば、今後も類似の措置が取られる可能性は否めないだろう。

 

出所:2019年4月16日付グリーンブラット外交交渉特別代表のツイートより

(https://twitter.com/jdgreenblatt45/status/1118234058872512518)

(研究員 西舘 康平)

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