中東かわら版

№92 イスラエル:アラブ諸国との関係正常化を模索

 各種報道によれば、イスラエルのネタニヤフ首相は最近、アラブ諸国との関係正常化への取り組み、見通しにつき要旨以下の通り述べている。

・パレスチナの土地の一部を手放す準備があるが、治安上の管理は手放さない(10月27日、オマーンのカーブース国王との会談)(12月7日付『シャルク・アウサト』

・2019年の総選挙までにサウジアラビアとの関係を正常化したい。

(12月8日付『Hadashot TV』

・オマーンがイスラエルの航空機にオマーン領空の通過を許可するだろう。

・アラブの指導者とこれまで行ってきた会談で、彼らには安全保障、経済の利益があり、イスラエルとの関係正常化をパレスチナ人の激情の人質にはしないと述べていた。

・パレスチナ人との合意があれば、それは称賛に値することだが、我々はアラブ世界との関係正常化と結びつきを、パレスチナ人との和平と関係づけない。

(イスラエル外務省本庁でのイスラエル大使会議において)(12月10日付『AFP』

・オマーンはイスラエルのエルアル航空にオマーン領空を通過することを許可した。

・イスラエルの航空機はエジプト、チャド、またもしかしたらスーダン上空も通過できるかもしれない。

(イスラエル外務省本庁でのイスラエル大使会議において)(12月10日付『Ctech』(イスラエル)

 

 

評価

 

 ネタニヤフ首相は、アラブ諸国との関係をアピールする動きを強めている。この動きはイスラエルの内政と中東和平という2つの面から評価できる。

 内政面に関しては、ハマースとの停戦案を機にリーベルマン国防相が辞任し、議会で連立与党の議席を減らしているため、ネタニヤフ政権は何らかの政策で成果を上げる必要がある。だが、ネタニヤフ首相はハマースとの停戦を推進したことで国の安全を脅かしたと野党と与党から批判を受けている。そこで自国の航空機の領空通過を通じて、アラブ諸国との関係構築を図ることで、外交上の成果をアピールしていると思われれる。

 中東和平に関しては、イスラエルは、米国を仲介役とする従来の中東和平の枠組みが機能していない状況に乗じて、アラブ諸国との関係構築を狙っていると思われる。2017年にトランプ政権はエルサレムをイスラエルの首都と認め、今年に入って米国大使館をエルサレムに移転した。その結果、1967年ラインに基づく東エルサレムを首都とするパレスチナ国家の建設、1948年以降に発生した難民の帰還権の保証等を通じてパレスチナ問題の解決を目指す、従来の中東和平の枠組みは機能しなくなった。事実、今年に入ってイスラエルとパレスチナ自治政府は和平プロセスにむけた会合を開いていない。

 他方、他のアラブ諸国との関係としては、イスラエルはエジプトとヨルダンだけと国交を持ち、その他のアラブ諸国とは公式の外交関係はない。だが、米国によるエルサレムのイスラエル首都承認やエルサレムへの大使館移転、国際連合パレスチナ難民救済事業機関に拠出する資金の停止、今年の3月にガザ地区で発生した帰還の行進に対するアラブ諸国の反応は薄く、アラブ諸国の政府のパレスチナへの連帯機運は低い。こうした状況の中、イスラエルはアラブ諸国のうち、湾岸地域からはオマーン、アフリカのアラブ諸国からはスーダンを選び、上記のような働きかけを行っている。

 とはいえ、アラブ諸国はパレスチナ問題とイスラエルとの関係正常化を簡単には割り切れないだろう。2002年のアラブ連盟首脳会議でサウジのアブドッラー国王(当時)が取りまとめたアラブ和平イニシアチブでは、パレスチナ問題が解決された後、イスラエルと関係を構築することが記されている。事実、スーダン政府と議会は、イスラエルとの関係正常化の報道を公式に否定している。今後、アラブ諸国がイスラエルにどう反応するかが注目される。

(研究員 西舘 康平)

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