中東かわら版

№71 イラン:カショギ氏事件の裏で進展する米国の対イラン制裁

 10月16日、米国財務省は、イスラーム革命防衛隊(IRGC)傘下の民兵組織(バスィージ)に人道的な問題(少年兵の勧誘・訓練・派兵etc)があったとして、イランへの追加制裁を発表した。新たに制裁対象となったのは、IRGCに資金提供を行っているとみなされた20の関連企業・団体である。米国財務省SDNリスト(Specially Designated Nationals and Blocked Persons List)の更新情報によれば、制裁対象に追加されたのは下記の通り(アルファベット順)。

 

・アンディーシェ・メフヴァーラーン投資社(Andisheh Mehvaran Investment Company)

 *イラン側の表記だとMehvaran→Mehravaran

・バフマン・グループ(Bahman Group)

・バンダル・アッバース亜鉛生産社(Bandar Abbas Zinc Production Company)

・メッラト銀行(Mellat Bank)

・バスィージ協力財団(Bonyad Taavon Basij a.k.a. Basij Cooperative Foundation)

・カリスィミン社(K/Calsimin)

・エスファハーン・モバーラケ鉄鋼社(Esfahan's Mobarakeh Steel Company)

・イラン・トラクター製造社(Iran Tractor Manufacturing Company)

・イラン亜鉛鉱山開発社(lran Zinc Mines Development Company)

・メフル・エクテサード銀行(Mehr Eqtesad Bank a.k.a. Mehr Interest-Free Bank)

・メフル・エクテサード・フィナンシャル・グループ(Mehr Eqtesad Financial Group)

・ネギーン・サーヘル・ロイヤル・カンパニー(Negin Sahel Royal Investment Company a.k.a. Negin Sahel Royal Co.)

・ペルシア銀行(Persian Bank)

・ペルシア触媒化学社(Persian Catalyst Chemical Company)

・ゲシュム亜鉛製錬・還元社(Qeshm Zinc Smelting and Reduction Company a.k.a. Qeshm Zinc Smelting and Reduction Complex)

・スィーナー銀行(Sina Bank a.k.a. Sina Finance and Credit Institute)

・タドビールガラーン・アーティーエ・イラン投資社(Tadbirgaran Atiyeh Iranian Investment Company)

・タクタール投資社(Taktar Investment Company)

・テクノタール工業社(Technotar Engineering Company)

・ザンジャーン酸生成社(Zanjan Acid Production Company a.k.a. Zanjan Acid Makers; a.k.a. Zanjan Acid Makers and Alvand Rouinkaran; a.k.a. Zanjan Acid Sazan)

 

 また、米国財務省によれば、これらの関連企業・団体は、IRGCに資金提供をするために下図のようなネットワークを形成していると主張しており、これらの関係を断つことを主たる目的としている。

 

出所:米国財務省HP

 

評価

 今次の制裁は、11月5日に再適用となる対イラン制裁第2弾とは別の追加制裁である。米国の核合意(JCPOA)離脱と先般のアフワーズでのテロ事件を切っ掛けとして動きが活発化してきたIRGCが標的とされており、特に、精鋭部隊ゴドス軍への資金の流れを断つことが目的とされている。このゴドス軍は、米国やイスラエルが非難する中東域内での作戦(シリア、イラク等)に関与する部隊であり、ソレイマーニー司令官以下軍関係者及びIRGC関連企業は既にSDNリストに掲載済みである。

 では、なぜこれらの企業・団体が制裁対象となったのか。イラン国内では、その理由を今般の追加制裁が、IRGCを名目としながらも実際はイラン経済に直接的な打撃を与えるために企図されたからだ、という見方が主流となっている。事実、対象となっている鉄鋼やトラクター・メーカーなどは、中東域内でビジネスを行うイラン有数の企業である。また、メッラト銀行などはイラン国民の生活に密着した存在である。こうした事態に、イラン外務省のガーセミー報道官は、17日の会見で、今般の制裁はイランだけでなく国際社会に対する裏切りであると述べた。また、ザリーフ外相も同日、米国が説明したIRGCのネットワーク(上図)を言いがかりであるとツイートしている。

 11月に再開される制裁第2弾では、イラン経済の根幹を支える石油輸出や、金融の要である中央銀行との取引などが対象となる。その直前にこうした追加制裁を科すことで、イラン経済を着実に弱体化させたい狙いがあることは明らかである。

 10月2日に発生したサウジアラビア人ジャーナリスト、ジャマール・カショギ氏の失踪事件をきっかけに、米国とサウジの関係が悪化し、イランに利するのではないかという一部報道が出ている。だが、米国とサウジは互いにとり重要な存在であるため、この事件は二国間関係には影響を与えないだろう。中東の国際政治はそう単純なものではない。今般の米国の追加制裁が示すように、米国は揺らぐことなくイランへの締め付けを強化している。裏を返せば、イランが米国に敵対するとみなされる限り、均衡を保つために、米・サウジ関係に大きな変化は起きないと見て良いだろう。

(研究員 近藤 百世)

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