中東かわら版

№64 リビア:エジプト人イスラーム過激派幹部ヒシャーム・アシュマーウィーの拘束

 10月8日、リビア東部の軍事組織「リビア国民軍」(LNA)は、デルナでの軍事作戦中に、元エジプト軍将校でイスラーム過激派幹部のヒシャーム・アシュマーウィーを拘束したと発表した。同人は、2015年3月頃から活動を開始した「ムラービトゥーン」(アル=カーイダを支持)の首領である(※アルジェリアなどを拠点とする「ムラービトゥーン」とは別組織)。以下の画像は、インターネット上で「ムラービトゥーン」が初めて発表した動画内に挿入されたアシュマーウィー自身とされる画像である。LNAが公表した拘束されたアシュマーウィーの画像と似ており、エジプト軍も本人と確認した。

(出所)「ムラービトゥーン」が2015年3月3日に公開した動画より。

 アシュマーウィーは、シナイ半島を拠点として活動していた「エルサレムの支援者団」(アンサール・バイト・マクディス)に所属していたが、同組織が「イスラーム国」に忠誠を誓ったことに反対して離脱、「ムラービトゥーン」を結成し、リビア東部のデルナで活動していたとされる。エジプト当局は、アシュマーウィーが2013年内相暗殺未遂事件、2014年ファラーフラ・オアシス検問所襲撃事件、2015年検事総長爆殺事件に関与したとみているが、確たる証拠は公表されていない。

 

評価

 デルナはさまざまなイスラーム過激派の活動拠点であったが、LNAによる長期の掃討作戦の結果、「イスラーム国」勢力や「デルナ・ムジャーヒドゥーン・シューラー評議会」(アル=カーイダを支持)が駆逐されてきた。アシュマーウィーの拘束によって、デルナにおけるイスラーム過激派の活動はさらに衰勢に追い込まれるだろう。

 ただし、これによってデルナ、またはリビア東部の治安が安定することや、エジプト西部砂漠の治安が改善することは見込めない。リビアの治安問題の根本原因はイスラーム過激派ではなく、中央権力の不在によって、民兵組織が自らに都合のよい形で治安維持や物流管理を行っていることである。こうした不法活動のいわば公式化が、イスラーム過激派の活動を容易にし、エジプト本土への侵入も可能としたのである。したがって、エジプト側が大きな脅威とみていた人物が拘束されたとはいえ、リビア・エジプト双方の治安情勢に大きな改善はみられないだろう。

(研究員 金谷 美紗)

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