中東かわら版

№15 イスラエル・パレスチナ:アメリカ大使館の標識設置に対する反応

 5月7日、イスラエルのエルサレム市長は、5月14日に予定される米大使館のエルサレム移転の式典に先立って英語、ヘブライ語、アラビア語でアメリカ大使館と表記された道路標識をエルサレム南部に設置した。また同市の職員が類似の標識を多数設置したと報じられた。

 これに対しPLOは、標識を設置することは違法であるとし、これが1967年ラインに沿って民主的に独立した二国家による公正かつ恒常的な和平の達成を失墜させると表明した。また、各国の代表者や外交官に対して祝典への参加ボイコットを呼びかけ、祝典に参加すれば正当性のない決定に正当性を与えて、イスラエルの占領政策への沈黙が深まると主張した。

 他方、ガザ地区のパレスチナ諸派指導部は、14日と15日を「前進の日」、イスラエルとの境界線を突破する日と位置づけ、両日の活動への参加を呼び掛けている。さらに、3月7日に結成され同月30日から行進を始めた「帰還の大行進とフェンス突破のための最高民族機構」も7日、パレスチナ人民、アラブとイスラームの共同体に対して、14日は大使館移転を拒否する「世界の日」であるとし、「帰還のインティファーダ」を呼びかけている。なお、最高民族機構はハマース、ファタハ、イスラーム聖戦、パレスチナ解放人民戦線、パレスチナ人民党といった諸派のコンセンサスを得て設置された。

 

評価

 今般の措置への反応として、イスラエルとの境界付近で行進を組織するパレスチナ諸派は、14日ないしは15日を中心とする大規模な抗議活動を計画している模様である。両日の抗議活動がどの程度の規模に発展するのかは推測の域を出ないが、行進を呼びかける主体が何を目的としているか、誰に、何を、どれだけ具体的に呼びかけるか等にある程度の影響を受けるだろう。

 この点について、民族最高機構は5月4日付で声明を出している。同機構の声明は、ガザ地区、西岸地区、離散した諸キャンプのパレスチナ人民、イスラエルのアラブ系市民に向けて、11日を「警告の日」、14日「百万人の大行進」と位置付けるよう呼び掛けた。さらに、「世紀の取引」は成立しないというトランプ大統領への強いメッセージとして14日の行進を行うよう呼びかけている。また、土地と聖地の解放とガザ地区の封鎖解除のために、アラブとイスラームの諸人民、世界の自由人に対し、エネルギーと熱情をエルサレムとアクサー・モスクに向け、百万人の行進を支援するよう呼び掛けた。さらに人権活動家、メディア、国際・地域の人権団体、国際社会に対して諸行進を支援し、女子供、記者、救急隊員に対するイスラエルの罪を暴くよう呼び掛けている。

 上記の声明では、パレスチナ人に対する具体的な行動は呼びかけられておらず、行進の目的は①ガザ地区の封鎖解除、②「世紀の取引」の拒否、③イスラエルの悪事を国際的に暴くことに置かれている。また、呼びかけの対象は、①パレスチナ、イスラエル、近隣諸国のパレスチナ人、②アラブとイスラームの諸人民、共同体、③記者、人権機関等といるが、具体的な行動は①のみを対象としている。②に対しては行進への参加ではなく支援を求めている。③には国際社会への働きかけを訴えている。

 行進の目的が具体的にはガザ地区の封鎖解除に置かれ、中・長期的には「世紀の取引」の撤回に向けられていることは、イスラエルに有利な形でパレスチナ問題が進展することをパレスチナ側が懸念しているからだろう。境界付近の行進の組織側は、パレスチナ人を中心に行進を行い、これに近隣諸国のパレスチナ人が連帯を示し、また国際社会が注目するような展開を想定していると考えられる。だが、パレスチナ人による抗議やパレスチナ人が死亡することに対する国際社会の反応は極めて低調で、事態の推移に大きな影響を与えていない。そのため、14日、15日に向けて行進は起こるだろうが、国際社会を巻き込む形で展開するとは想定しにくい。他方、アラブ諸国やイスラーム諸国からの支援については、ガザ地区封鎖の解除や二国家解決といった問題に取り組むために効果的な行動を取り、その責任を負う必要があるが、パレスチナ側が支援を求めるに留まっていることは、そうした主体の不在を示している。

 

(研究員 西舘 康平)

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