中東かわら版

№166 イスラエル:シリア軍がイスラエル軍機を撃墜

 2月10日未明、イスラエル軍機8機がシリア国内への空爆を行い、シリア軍の迎撃でイスラエル軍のF-16戦闘機1機が撃墜された。イスラエル軍は、今回のシリア空爆は、1982年のイスラエル軍のレバノン侵攻以降で最大規模の攻撃だとした。またイスラエル軍機が、シリア軍の対空砲火で撃墜されたのも1982年以来、初めてである。

 イスラエル軍の発表では、10日未明、シリア側からイスラエル領空に無人機1機が侵入した。同無人機は、イスラエル軍の戦闘ヘリコプターが撃墜した。イスラエル軍は、同無人機は、イラン製でシリア国内に駐留するイラン人勢力が飛ばしたと非難した。イランは無人機との関係を否定しているが、イスラエル軍は、同日未明、無人機の領空侵犯に対する報復攻撃として8機の戦闘機によるシリア内の12カ所(シリア軍施設8カ所、イラン関係施設4カ所)への空爆を実施した。同攻撃に対して、シリア軍は地対空ミサイル20発で迎撃し、イスラエル軍機1機が撃墜された。機体はイスラエル北部に墜落し、搭乗員2名は脱出したが、パイロットが重傷、ナビゲーターが軽傷を負った。またシリア軍の地対空ミサイル1発が、イスラエル北部に落下した。イスラエル軍もシリア軍も、10日未明後、新たな軍事行動には出ていない。今回の爆撃でシリア人の死者が出たと報道されているが、イラン人への被害ははっきりしない。

 イスラエル軍機のシリア国内爆撃後、ロシアのプーチン大統領がネタニヤフ首相と電話で会談し、自制を要請した。米国のティラーソン米国務長官は、ネタニヤフ首相に電話をして、イスラエルの防衛行動への支持を表明している。イスラエル側の報道(12日)によれば、イスラエルはプーチン・ネタニヤフ電話会談の後、シリアに対する追加攻撃を停止した。

評価

 イスラエル軍は、シリア紛争が激化した後、シリア国内にあるヒズブッラー向けの兵器を破壊するとして、シリア国内への空爆を実施してきた。空爆の回数は、100回あるいは1000回前後(イスラエル要人の発言)と定かではないが、シリア軍が国内での戦闘に忙殺された結果として、イスラエル軍はシリア領空を自由に侵犯して爆撃を実行してきた。こうした状況が変化したと推定されるのは2016年秋頃からで、シリア軍はイスラエル軍の国内での爆撃に対して迎撃行動を取るようになった。そのためイスラエル軍機は、シリア領内への空爆を行う際、レバノン領空から空対地ミサイルを発射するようになっていた。今回の爆撃では、イスラエル軍機はシリア領空に侵入したしたようだが、シリア軍の迎撃体制がより整備・強化され、イスラエル軍機を撃墜する意思と能力があることが証明された。シリア領空に侵入した外国の戦闘機をシリアが迎撃するのは当然の行動であるが、今後、イスラエル軍機がレバノン領空あるいはイスラエル領空からシリア国内への遠距離のミサイル攻撃などを行う場合、シリア軍がどう対応するかが注目される。

 イスラエルは、シリア国内にイラン人軍関係者あるいはシーア派系民兵が存在することを非難し、攻撃も辞さない姿勢を見せているが、シリア政府の合意の下でイラン人が軍事顧問としてシリアに駐留する限り、イラン人軍関係者のシリア国内駐留は合法だろう。今回、イスラエルは、イラン系組織が無人機をイスラエル領空に飛ばしたことの報復としてシリア国内の空爆を実行した。ゴラン高原では、これまでイスラエル軍あるいはレバノンのヒズブッラーが無人機を飛ばしているし、イスラエル軍は領空に侵入した無人機を撃墜したことはあるが、無人機を発進させたとしてシリア国内の基地を攻撃したのは、今回が初めてである。またイスラエル軍は、これまで意図せずにゴラン高原でイランの革命防衛隊幹部の乗る車を空爆して誤って殺害したことはあるが、シリア国内にいるイラン人勢力とその施設が対象であると断定して攻撃したと発表したのは、今回が初めてある。ロシアのプーチン大統領は、事態の沈静化を働きかけているが、米国は積極的な動きをしていない。米国のティラーソン国務長官は、現在中東歴訪中であるが、国務省は同長官がイスラエルを訪問する予定はないとしている。

(中島主席研究員 中島 勇)

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