中東かわら版

№58 イラン:シリア国内の「イスラーム国」に向けたミサイル攻撃の実施

 6月18日夜、イラン革命防衛隊はシリアのデリゾールに置かれているタクフィール主義のテロリストの指揮所、兵站拠点、自爆用自動車製造工場に向けてミサイル攻撃を行ったと発表した。ミサイルはケルマーンシャーおよびコルデスターンの革命防衛隊の基地から発射された。革命防衛隊が発出した声明によると、同攻撃は6月7日にテヘランで発生した襲撃事件に対する報復であり、イランに対して再度非道な手段が取られた場合は革命防衛隊による報復が行われるということをテロリスト、そして域内および域外の支援者に対して警告することを意図したものである(襲撃事件の詳細は「イスラーム過激派:テヘランでの襲撃事件」『中東かわら版』No.50(2017年6月8日)「イラン:テヘラン襲撃事件を巡るサウジへの批判」『中東かわら版』No.52(2017年6月9日)

 

評価

 6月7日のテヘラン襲撃事件はイラン国内に大きな衝撃を与えており、革命防衛隊からは報復を行うことが宣言されていた。今回革命防衛隊から出された声明は以前の報復宣言に言及しており、革命防衛隊としては襲撃事件とミサイル攻撃の関連性が明確に意識されていると言えよう。そうすると、今回の声明で指摘している「域内および域外の支援者」は、前回の声明で言及されていたサウジアラビアと米国のことを指していると考えられる。

 革命防衛隊の声明を読む限りでは、今回のミサイル攻撃は「報復」と「警告」を意図したものであり、今後もイラン領内からシリアに対して同様の攻撃を継続するというメッセージは読み取れない。現在イランが支援するイラクのシーア派民兵がイラク・シリア国境沿いで対「イスラーム国」作戦を強化しており、今回のミサイル攻撃をこれと関連付けて議論する報道や分析が散見されるが、少なくとも現段階では両者の間に関連性があると断定できるだけの証拠はないように思える。もっとも、米国やサウジアラビアなど警告の受け手側は、イランがシリア紛争に対する介入を深化させたと理解する可能性があり、事態がエスカレートしていく恐れもある。

 他方で、イランが実戦においてミサイル攻撃を実施するのは、イラン・イラク戦争以来約30年ぶりのことである。今回使用されたミサイルは、ファーテフ110短距離弾道ミサイルから派生した射程750kmのゾルファガールと見られている。ゾルファガールは2016年9月の軍事パレードにおいて披露された最新鋭のミサイルであり、クラスター爆弾を搭載できる。イランのミサイル能力を脅威と見るイスラエルやサウジアラビアは、これを機にイランの軍事的脅威が実証されたと喧伝するだろう。特に、現在新たなイラン制裁法を審議中である米国に対して、イランのミサイル開発を規制するよう要請するロビイング活動が活発化するものと見られる。

(研究員 村上 拓哉)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP