中東かわら版

№27 パレスチナ:開始から約1カ月になるパレスチナ人囚人の集団ハンスト

 4月17日からイスラエルの刑務所で開始されたパレスチナ人囚人らによる集団ハンストは、依然継続中である。ハンスト開始28日目になる5月14日には、ハンスト開始以来初めて、同運動の提唱者であるファタハ幹部(中央委員会委員)マルワーン・バルグーティが弁護士との会見を許可されている。会見した弁護士によれば、体重は12キロ減ったが、バルグーティの健康状態に問題はない。ただハンスト開始から1カ月近くになるため、一部の参加者は体調を壊している模様であり、パレスチナ人囚人協会は、イスラエル当局に体調不良を訴える囚人の入院を要請したが、イスラエル側は拒否したと報道されている。ハンストに参加している囚人数は、イスラエル側の発表では約880人、パレスチナ側発表では1500人~1800人である。囚人代表とイスラエル刑務所当局の交渉はまだ開始されていないが、5月12日には、パレスチナの囚人協会代表者がイスラエルとの交渉が近く始まると発言している。

 西岸とガザでは、ハンスト中の囚人に対する連帯・支持を表明する集会、座り込みなどが行われている。イスラエル軍との衝突の呼びかけもあり、若者とイスラエル治安部隊の衝突が発生しているが、規模と頻度は限定的である。ただ5月12日には、西岸のナブルス近郊での衝突で、初めてパレスチナ側に死者が出ている。ハマースの囚人は、ハンストには参加していないが、ガザのハマースは、ハンスト支持の集会やデモを実施している。5月7日、イスラエル当局は、ハンストを主導するバルグーティが独房内のトイレでスナック類を密かに食べたとする映像を公表したが、パレスチナ側は偽造映像だと非難している。

評価

 ハンスト開始から約1カ月になるが、囚人代表と刑務所当局の交渉はまだ開始されていない。しかし、これから健康状態が悪化する囚人数が増加することが予想され、イスラエル当局は交渉による政治的解決の模索を強いられるだろう。イスラエルには、囚人の命を守るために、ハンスト中の囚人に強制的に食事をさせることを規定した法律があるが、医療関係者が当局の要請に従い、強制的な食事提供に協力するかは疑問である。医療関係者の間には、ハンスト中の囚人に対して本人の意思に反して強制的に食事を取らせるのは、論理的には拷問に相当するとの考え方があるようだ。

 集団ハンストを支援するための各種の呼びかけがなされているが、非暴力的な支援活動が主体になっている模様である。ハンスト支持の集会、座り込み、文化的イベントなどが盛んに行なわれている。4月27日には、ハンスト支援のためのゼネストが実施された。西岸でのゼネストは住民の大半が参加した模様であり、学校など公共機関が閉鎖され、商店は休業となり、その規模は1990年代はじめの第一次インティファーダ以来だと報道されている。

 

(中島主席研究員 中島 勇)

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