中東かわら版

№191 サウジアラビア:サルマーン国王のアジア歴訪

 2月25日からアジア諸国を歴訪していたサルマーン国王は、3月18日、サウジアラビアに帰国した。今回のアジア歴訪では、2月26日から3月1日まではマレーシア、1日から4日まではインドネシア、4日にはブルネイを訪問し、4日から12日までインドネシアのバリ島で休暇を過ごした。また、3月12日から15日までは日本、15日から18日までは中国をそれぞれ訪問した(訪日に関しては、「サウジアラビア:サルマーン国王の訪日」『中東かわら版』No.188(2017年3月16日)を参照)。なお、当初の発表では中国訪問後にモルディブとヨルダンを訪問する予定となっていたが、同国王は中国から直接サウジに帰国した。

 各国では首脳会談が開かれ、主に経済関係の合意が複数結ばれた。サウジ外務省によると、サルマーン国王は5カ国を訪問するなかで、25回の会談、20回の演説を行い、27本の合意が結ばれたと発表している。

 

評価

 サルマーン国王によるアジア歴訪は、経済面では欧米を抜いて主要な貿易相手となっているアジア諸国との関係を拡大・発展していくことを目指したものであり、近年のサウジアラビアのアジア重視政策の一環と捉えられよう。特に、2016年には脱石油依存型経済を標榜する経済改革「ビジョン2030」が開始されたため、これを推し進めるためにアジア諸国からの投資や技術協力を受けることを期待する声は更に高まっているといえる。

 とはいえ、各国で目玉となったのはサウジの石油部門との合意であった。マレーシアでは、国営石油会社ペトロナスが開発を進めるペンゲラン総合石油コンプレックスに製油所を設置するため、サウジアラムコが70億ドルの投資をすることで合意が結ばれた。これは同プロジェクトに対する最大の投資となる。インドネシアでは、インドネシアの開発計画のためサウジが10億ドルの融資を行うことが発表されたほか、両国はサウジアラムコとインドネシアの国営石油会社プルタミナとの間で2016年12月に合意されたジャワ島のチラチャプでの製油所共同開発に対する60億ドルの投資について進めていくことを再確認した。また、中国では、サウジアラムコと中国北方工業公司(Norinco)との間で製油所・石油化学プラントの建設について、サウジ基礎産業公社(SABIC)と中国石油化工集団公司(シノペック)との間で石油化学プロジェクトの実施について合意するなど、総額650億ドル規模の合意が結ばれることになった。

 今回の歴訪では、マレーシアやインドネシアではサウジから投資を行い、そしてその見返りとして、イランに対抗するサウジへの支持をイスラーム諸国から取り付けることが主要な関心であったと指摘されている。他方、サウジアラムコの上場誘致で競合する日本と中国は、サウジに対する投資や技術協力でサウジ側の歓心をどれだけ買うことができたかが焦点となった。そういった状況がありながら、多額の投資や合意が石油部門に集中したことは、サウジアラビアが石油依存型経済から抜け出すことの難しさを象徴しているともいえよう。

(研究員 村上 拓哉)

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