中東かわら版

№122 イスラエル:トランプ候補勝利に対する反応

 11月9日、米国の大統領選挙でトランプ候補の勝利が確定した。イスラエルのネタニヤフ首相は、同日、トランプ次期大統領と電話で会談した。トランプ次期大統領は、ネタニヤフ首相に政権成立後の早い時期にワシントンを訪問するよう要請した。ネタニヤフ首相は、その後、敗北したクリントン候補に電話をしている。

 11月6日の閣議の際、ネタニヤフ首相は閣僚らに、米国の大統領について公のコメントをしないよう指示している。2012年の米国大統領選挙では、ネタニヤフ首相は共和党のロムニー候補支持を表に出したが、今回の選挙では慎重に対応しており、米国大統領選挙に関する公式な発言は一切なかった。イスラエルのメディアは、ネタニヤフ首相はトランプ候補に勝って欲しいと思っているだろうとの憶測報道をしている。11月9日にトランプ候補の勝利が確定した後のイスラエルのメディアの報道の論調は一律ではなく、次期大統領を歓迎する論評と逆に警戒する論調の双方が並存している。その最大の理由は、トランプ新政権の政策に関する情報がほとんどないからである。

 米国のユダヤ人は民主党支持者が多いが、今回の大統領選挙でも約7割がクリントン候補に投票し、約2割5分がトランプ候補に投票したといわれている。米国のユダヤ人たちは、民族差別的発言をするトランプ候補の攻撃の矛先が、いつユダヤ人に向かうかわからないと警戒しているようだ。11月4日、選挙戦の最終段階で、トランプ陣営は約2分間のテレビ広告の放映を行なった。同広告では、トランプ候補が民衆の側に立って政治や経済を支配する体制派勢力と戦うことが強調された。この宣伝について、ユダヤ人に対する差別行動などを監視しているADL(Anti-Defamation League:名誉毀損防止同盟)が、反セム的だと批判した。しかし、トランプ候補側は、ADLの指摘を不当な批判だと反論している。

評価

 トランプ候補の勝利が確定した翌11月10日、トランプ氏のイスラエル担当顧問ジェイソン・グリーンバットは、「イスラエル軍放送」との会見で、自分のボスは、西岸の入植地を不法だと言わないし、入植地が和平の障害だとは思っていないと述べている。トランプ候補の2人のイスラエル担当顧問は、同様の発言を選挙期間中に繰り返している。また共和党は、7月18日に党綱領を採択し、中東和平交渉については「2国家構想」の文字を削除したほか、イスラエルの入植地政策を支持する立場を表明している。ただトランプ候補自身は、政策について発言しておらず、彼の対中東、中東和平政策を考えるための具体的な材料がほとんどないのが現状だろう。トランプ政権が、共和党の党綱領やトランプのイスラエル担当顧問のアドバイスに忠実に従って対イスラエル・パレスチナ政策を進める場合、米国の立場はイスラエルの極右勢力とほぼ同じになる。イスラエルの極右政治家の一人は、中東和平問題で2国家解決案がなくなるとの期待を表明している。これだけでも中東地域は相当混乱するだろう。さらに米国新政権が過剰な親イスラエル政策を取る場合、米国は「イスラーム国」対策など域内で直面する問題で域内諸国との有志連合などの協調体制を維持することが困難あるいは不可能になる。そのような状況になれば、トランプ次期大統領は、より現実的な中東政策を取る、あるいは取らざるをえない状況になるかもしれない。

 ネタニヤフ首相は、トランプ次期大統領について公の場ではなにも発言していないが、イスラエルのメディアは、両者の選挙手法が似ていること、ネタニヤフ首相を強力に支援している米国人のカジノ王シェルドン・アデルソンが、トランプ候補支持を公に表明し、今回の選挙では1000万~2500万ドルの政治献金をしたことをあげて、両者の関係は近いはずだと憶測している。ただアデルソンが保有する米ネバダ州の最大紙「ラスベガス・レビュー・ジャーナル(The Las Vegas Review-Journal)」は、米国のメディアでは例外的にトランプ支持を表明したものの、彼が実際に行なったトランプへの献金額は当初明言していた額よりかなり低額であったため、積極的に支援した形にはなっていないようだ。また米国のユダヤ人とイスラエルのユダヤ人の一部は、トランプ次期大統領に対する強い不安を感じているようである。彼らは、トランプ氏の差別的発言は、今はメキシコ不法移民やイスラーム教徒移民に向かっているが、状況が変われば、いつユダヤ人に向かうかわからない不気味さを感じているようだ。

  中東和平問題に限定すれば、直近の焦点は、オバマ大統領が任期終了までの行動である。ネタニヤフ首相が、トランプ候補の当選をあからさまに喜ばない一つの理由は、オバマ大統領の行動を懸念しているためかもしれない。任期終了前に、中東和平問題に関連してオバマ大統領が何らかのレガシーを残すかもしれないとの期待・憶測は依然存在している。

(中島主席研究員)

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