中東かわら版

№117 レバノン:2年6カ月ぶりに大統領の空位が解消

 2016年10月31日、レバノンの国会は、46回目の大統領選出のための本会議でミシェル・アウン議員(自由国民潮流代表)を大統領に選出した。レバノンでは、2014年5月に当時のスライマーン大統領の任期が満了して以来、「3月8日勢力」と称されるヒズブッラーや自由国民潮流などからなるグループと「3月14日勢力」と称されるムスタクバル運動を中心とするグループとの対立が深まり、大統領が空位となっていた。しかし、10月末になりサアドッディーン・ハリーリー元首相(ムスタクバル運動代表)とアウン議員との間で政策合意が成立、前者が後者を支持することにより、大統領の選出が実現する可能性が俄かに高まっていた。なお、アウン議員は1回目の投票では選出に必要な支持(86票)を獲得することができず、65票以上の獲得で大統領に選出可能な2回目以降の投票に回り、4回目の投票で83票を獲得して当選した。なお、2回目と3回目の投票は無効でやり直しとなった。

評価

 アウン議員は、レバノン内戦最末期にシリアの覇権に抵抗し、1990年にフランスに亡命した。これが、ラフィーク・ハリーリー元首相の暗殺を契機とする「杉革命」でシリア軍がレバノンから撤退したことを受けて2005年に帰国、以後2005年、2009年の選挙で国会議員に当選していた。しかし、帰国後のアウン議員はシリア寄りの立場をとり、2008年にシリアを訪問するなどしてアサド政権との和解・関係強化を進めていた。この度もアサド大統領がアウン新大統領に架電して祝意を伝えており、国際関係やシリア紛争の文脈ではシリアにとって望ましい人事であることを示している。

 当初はアウン議員が1回目の投票で3分の2の支持を獲得して当選することが予想されていたが、これが成らなかったのは同議員が率いる「自由国民潮流」や、ハリーリー元首相の「ムスタクバル運動」から一定数の造反(=白票を投票)があったからだと見られている。また、「ムスタクバル運動」と対立関係にあるヒズブッラーは当初からアウン議員を大統領候補として支持していたことから、アウン大統領の誕生はヒズブッラーにとって政治的な勝利といえる。今後、レバノンの政局の焦点はハリーリー元首相が首班となると見られる組閣、及び、こちらも2013年に任期が満了したものの選挙が行われていない国会議員改選のための選挙法の制定に移る。しかし、レバノンにおいては宗派毎に政治的権益を配分する不文律などが原因で、いずれの政治勢力も国会や内閣で重要な決定に必要な勢力を得ることが不可能となっている。今後も組閣や選挙法の制定などの重要局面で各会派が「挙国一致」を達成できるかは予断を許さない。

(髙岡上席研究員)

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