中東かわら版

№103 イスラエル:米国が新入植地建設を強く非難

 10月5日、米国務省のトナー副報道官は声明を発表し、イスラエルが西岸で新しい入植地を建設しようとしていることを非難した。米国は、これまでイスラエルの入植地活動を批判してきたが、今回初めて、テロなどを非難する時と同じ「strongly condemn」という表現を使ったことで、異例の厳しい表現と報道された。同声明は、イスラエルが西岸の深部(ラーマッラーの北、イスラエルよりヨルダンに近い場所で将来の交渉でイスラエル領になる可能性はほぼない)に新しい入植地を建設しようとしていること、さらに米国のイスラエルに対する軍事支援覚書調印の後で、かつペレス前大統領の国葬が行なわれていた時期に、このような計画が進められていたことを非難した。ホワイトハウス報道官も、新入植地建設を非難し、これは友人に対するやり方ではないとした。

   米国の強い非難を受け、5日、イスラエル外務省は、住宅建設が予定されている入植地「シロ」に隣接する地域は、新しい入植地ではなく既存の入植地だと反論した。同入植地建設については、10月2日、イスラエルのNGO「ピース・ナウ」が、9月28日に西岸を統治する民政府高等委員会が、入植地「シロ」に隣接する土地に新入植地を建設する計画を進めることを決めたと発表していた。10月4日には、国連の潘事務総長が同計画を批判していた。 

 不法入植地の扱いは、イスラエル国内でも問題になっている。9月8日、イスラエル最高裁は、不法入植地「アモナ」(あくまでイスラエル基準での不法入植地。国際法的には占領地内のすべての入植地が不法)を、12月25日までに撤去するよう命令した。今回計画されている新入植地に建てるのは、「アモナ」に住む入植者用の住宅だと言われている。与党を構成する「ユダヤの家」党は、最高裁決定を批判しているだけでなく、同党のベネット党首(教育相)は、政府が不法入植地を合法化するよう要求し、西岸をイスラエルに併合する時期だとも主張している。同党のシャケッド司法相にいたっては、米国は西岸での住宅建設よりも、シリア情勢を非難すべきだと主張している。報道では、不法入植地「アモナ」の住民は、12月末の強制退去に際して当局と戦う準備をしており、極右活動家「2万人」が駆けつけることを期待しているようだ。

 

評価

 今回は、米国が新入植地建設を異例の厳しい表現で非難したことがニュースになっているが、より重要なことは、非難声明を出した後の米国の行動である。10月5日、国務省のトナー副報道官は、上記声明を出した直後に定例の記者会見を行なった。同会見に参加していたある記者は、米国政府が過去何度も入植地建設に関して批判する声明を出したにもかかわらずイスラエルはまったく聞いていないとして、米国は次の手を考えないのかという質問をした。トナー副報道官は、その問いに直接答えることはなかったが、同じような疑問を持ったのはその記者だけではなかったようだ。6日付の『NYT』紙社説は、イスラエルは、新入植地建設で和平をつぶすという目的を達成しつつあり、米国はイスラエルの行動は2国家構想に対する裏切りであると強く非難することができるが、ネタニヤフ首相は、米国政府が何を考えているについて気配りしていないのは明白である、従って、任期終了前に2国家構想を守るために別の道を探すかどううかは大統領の考え次第であると論評した。同社説は、国連安保理で、中東和平に関する新しい決議採択が最良の選択肢になるとした。6日、イスラエル政府筋は、イスラエルの民放C2との会見で、米国政府が厳しい入植地政策非難をしているのは、オバマ大統領の任期終了前に、イスラエルに反対する行動を取るためのアリバイ作りだと発言している。

 ネタニヤフ首相にとっては、入植地問題は、政権維持を図れるかどうかの課題になりつつある。ネタニヤフ首相は、最高裁の決定に従い、不法入植地「アモナ」の住民を、たとえ形式的であれ排除する必要がある。しかし、過度の排除は、「ユダヤの家」などの極右政党の反発を招き、連立政権を崩壊させる可能性がある。他方、連立維持を重視して、不法入植地撤去で甘い対応をすれば、最高裁決定を履行しないとの批判を受けるだけでなく、安保理に新たな中東和平に関する決議案が提出され、米国が賛成あるいは棄権に回る口実を与える可能性もある。

 10月4日、イスラエルの民放テレビC10は、ネタニヤフ首相が野党の「シオニスト・ユニオン」のヘルツォグ党首と秘密裏に会談し、連立内閣について協議したと報道した。同報道について、リクードもヘルツォグ党首も全面的に否定している。この種の報道は根拠のない憶測報道である可能性が高いが、「シオニスト・ユニオン」との連立政権は、ネタニヤフ首相が、今直面している内政・外交上の危機を回避し、かつ自分の政権を維持するための有望な選択肢になるかもしれない。

(中島主席研究員)

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