中東かわら版

№88 サウジアラビア:ムハンマド・サルマーン副皇太子のアジア歴訪(2)

 アジア歴訪中のムハンマド・サルマーン副皇太子は、8月31日に日本に到着し、9月1日に天皇との会見、安倍首相との会談、9月2日に皇太子との会見、稲田防衛相との会談等を行った。9月4日、5日には中国で開かれたG20首脳会議に出席した。これに先立ち、8月28日にはパキスタン、29日には中国を訪問している(詳細は「サウジアラビア:ムハンマド・サルマーン副皇太子のアジア歴訪(1)」『中東かわら版』No.85(2016年9月1日)を参照)。

 日本で行われた安倍首相との会談では、サウジの経済改革「ビジョン2030」、安全保障分野での協力、地域情勢について協議した。安倍首相は、同副皇太子が主導する「ビジョン2030」について支持を表明するとともに製造業を軸とした投資、中小企業振興、人材開発、文化・娯楽・スポーツ振興等で日本が協力できると述べた。これに関連し、閣僚級の「日・サウジ・ビジョン2030共同グループ」を立ち上げ、10月に第一回会合を行うことで両者は合意した。会談後、文化交流、中小企業、模造品対策、エネルギー、産業協力等7の分野での覚書(MOU)を締結した。また、稲田防衛相との会談に先立ち、両国の防衛交流を強化する覚書も締結された。

 サルマーン国王の代理として出席した G20首脳会議では、「ビジョン2030」について説明するとともに、サウジへの投資、サウジとの経済関係の強化を各国に呼びかけた。また、ムハンマド・サルマーン副皇太子とプーチン露大統領との会談後、ファーリフ・エネルギー相とノヴァク露エネルギー相との会談も行われ、石油市場の安定のために両国が協力していくこと、これに関連するワーキング・グループを設置することで合意したことが発表された。ファーリフ・エネルギー相は、将来的に原油増産凍結を行う可能性があると述べた。

  

評価

 ムハンマド・サルマーン副皇太子による訪日はサウジ国内でも大きく報じられており、概ね肯定的に評価されている。先の訪中と同様、アジアとの関係拡大が経済面でも政治面でも今後より重要になるという大局観の中で、日本に期待する声は依然として多い。中国と比較すると将来的な日・サウジ経済関係の規模は相対的に小さくなっていくことが予想されているが、職業訓練や中小企業支援といったサウジ側が強く望んでいる分野において、きめ細かい協力関係を構築していくことが、日本とサウジアラビアの関係全体を良好なものにしていくことになるだろう。

 また、G20の場において各国の指導者との会談が行われたことは、ムハンマド・サルマーン副皇太子の存在を国際社会に示す格好の機会となった。今後、こうした場にサルマーン国王ではなく同副皇太子が出席することが常態化するようであれば、同副皇太子がムハンマド・ナーイフ皇太子を飛び越えて国王に即位するのではないかという観測が強まることにもつながるだろう。いずれにせよ、同副皇太子の政治基盤は、「ビジョン2030」で掲げた目標をどれだけ達成できるかにかかっているといえ、今回のアジア歴訪で合意した内容をどれだけ迅速に実現できるかが改革の成否を左右することになる。

(研究員 村上 拓哉)

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