中東かわら版

№83 サウジアラビア:イラク政府が駐イラク・サウジ大使の交代を要請

 8月28日、イラク外務省はサウジアラビア外務省に対し、サーミル・サブハーン駐イラク・サウジ大使を交代させるよう正式に要請したことを明らかにした。ジャマール・イラク外務省報道官は、「サブハーン大使によるメディアでの発言は、外交上の儀礼及び大使の任務を超越している」と述べ、「同大使はサウジアラビアとイランの問題をイラクに持ち込もうとしている」、「同大使の存在はイラクとサウジアラビアの関係の発展の障害になっている」と批判した。

 サブハーン大使は2016年1月の大使就任以来、イランによるイラク介入を度々批判し、イランの革命防衛隊が支援するシーア派民兵組織「人民動員隊」を対「イスラーム国」軍事作戦に参加させないようイラク政府に要請していた。また8月21日には、イランの影響下にあるシーア派民兵組織による同大使暗殺計画があったと主張し、イラク政府は装甲車両の提供など適切な保護をしていないと批判したが、イラク外務省は暗殺計画の存在自体を否定した。

 大使交代の要請を受けてサブハーン大使は、『シャルク・ル・アウサト』紙のインタビューにおいて、「サウジアラビアの外交政策は一定しており、個人に関連付けられているものではない」と述べるとともに、「(サウジアラビアは)イラクのアラブ性(ウルーバ)を放棄することはない」と述べ、今後もイランによるアラブ諸国への干渉を拒否する立場を維持することを表明した。

 

評価

 サウジアラビアが駐イラク大使を任命するのは1990年のイラクによるクウェイト侵攻以来、25年ぶりのことであり、2003年のイラク戦争後もサウジ・イラク間の対立が継続していた経緯に鑑みると、二国間関係の改善の象徴となるような出来事であった。しかしながら、サブハーン大使は就任以来、積極的にイラク内外のメディアに出演し、イランによるイラクへの介入を非難したことから、イラク側から内政干渉であるとの批判を受けることになった。

 サブハーン大使の発言がイラク国内政治の文脈で刺激的な側面があったのは事実であるが、イランによるイラクへの介入が存在することもまた事実であり、イラク議会内の複数のスンナ派議員は大使交代要請の決定に反対するなど、イラク国内でも議論が一致しているわけではない。今回の大使交代の要請は、外交官の受け入れ拒否を表明する最終通告となるペルソナ・ノン・グラータが発出されたわけではなく、外交ルートを通じた要請に留まっている。イラク政府としては、あくまで大使個人の資質の問題に収めることで、サウジ・イラク関係全体に悪影響を与えることを避けようとしているのだろう。これに対しサウジ政府側がどのような対応をするかが、今後の焦点となる。

(研究員 村上 拓哉)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP