中東かわら版

№72 リビア:「イスラーム国」勢力の弱体化

 シルトを中心として中部沿岸地域一帯に支配下に置いていたリビアの「イスラーム国」勢力が、国民合意政府(GNA)による掃討作戦によって弱体化している。トリポリを拠点に今年4月から始動したGNAは、5月から「イスラーム国」勢力に対する掃討作戦を開始した。GNA部隊発表によれば、現在ではシルト周辺5kmの範囲に包囲されているという。ただし、GNAには統一指揮形態を有する正規軍がまだ結成されていないため、「イスラーム国」掃討作戦を実施するGNAの部隊は、ミスラータの民兵組織を主力としていくつかの地域の民兵組織が集合したものである。

 アメリカも同様、リビアの「イスラーム国」が弱体化していると見ている。今年2月、アメリカは戦闘員数を約5000人と見積もっていたが、7月19日、アメリカ統合参謀本部のジョセフ・ダンフォード議長は同勢力はGNA部隊との戦闘で大きな損害を受け、戦闘員は数百人にまで減少したとの見方を示した。また、互いに戦闘状態にあったリビアの武装勢力諸派が統合を始めており、良い変化であると述べた。

 

評価

 GNA部隊は、シルト周辺の「イスラーム国」勢力に対して西・東・南の三方面から攻撃を加える作戦を行っており、またロジスティック面で欧米諸国の支援も受けており、これらが功を奏したと考えられる。「イスラーム国」勢力の攻撃(自爆、地雷攻撃など)は今も続いているが、戦闘員の大幅な減少に至らしめたことはGNA側の大きな戦果である。

 これは、空爆開始からほぼ2年が経っても攻撃能力の弱体化をもたらせないでいるイラクとシリアの「イスラーム国」とは対照的である。リビアの「イスラーム国」がイラクとシリアのそれと決定的に違う点は、経済状況と動員形態であろう。リビアの「イスラーム国」はシドラやラス・ラヌーフの油田を攻撃したものの制圧には失敗した。地元住民から「税金」の名目でカネを収奪するものの、裕福な人々は他の都市に逃げてしまったために収奪対象は貧しい人々となり、資金調達に苦しんでいるようである。また武装勢力諸派は、それがイスラーム主義であれ非イスラーム主義であれ、それぞれの地元への政治的帰属意識が強く、「イスラーム国」が掲げる超国境・超民族的共同体の思想と共鳴しにくい。そのため、「イスラーム国」と戦闘状態にあるイスラーム過激派は複数存在する。

 今後もしばらく「イスラーム国」勢力の攻撃は続くであろうが、劣勢が覆るようなことは考えにくい。問題は、「イスラーム国」勢力はリビアで群雄割拠する武装勢力の一つに過ぎないことである。アメリカはGNA部隊の結成を武装勢力が統合に向かう良い兆候と見なしているようだが、それほど楽観視はできないだろう。様々な民兵組織がGNA部隊に参加した動機の中心は、民兵組織どうしの対立関係を自派に有利に動かすことであり、国軍として再編成されるには長い時間と大きな労力が必要となるだろう。

(金谷研究員)

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