中東かわら版

№22 サウジアラビア:経済系ポストを中心とする大規模な行政改革・人事異動

 5月7日、サルマーン国王は、勅令49本(第127-175号)を発出し、経済系ポストを中心とする大規模な行政改革・人事異動を発表した。勅令とともに発出された王宮府の声明によると、今回の行政改革・人事異動は、これまでサルマーン国王が進めてきた各種評議会の廃止と政治・安全保障評議会、経済・開発評議会という二つの評議会の新設、そして「ビジョン2030」にて示された改革を進めるためのものであり、省庁の権限を廃止、統合、調整することを通じて、その権限を特定の行政機関に集中させることが目的である。今回発表された行政改革・人事異動の主な内容は以下のとおり。

 

行政改革(第133号)

・水・電気省の廃止

・商工省を商・投資省に名称変更

・石油・鉱物資源省をエネルギー・工業・鉱物資源省に名称変更

・農業省を環境・水・農業省に名称変更

・イスラーム事項・寄進・宣教・善導省をイスラーム事項・宣教・善導省に名称変更

・巡礼(ハッジ)省をハッジ・ウムラ省に名称変更

・労働省と社会問題省を統合し、労働・社会問題省を設立

 

内閣改造

・ヌアイミー石油・鉱物資源相を同ポストから解任し、王宮府顧問(閣僚級)に任命(第127、147号)

・ファーリフ保健相を同ポストから解任し、エネルギー・工業・鉱物資源相に任命(第132、136号)

・ラビーア商工相を同ポストから解任し、保健相に任命(第129、134号)

・ハッジャール巡礼相を解任し、ムハンマド・サーリフ・ターヒル・ベンテン(郵政庁長官)をハッジ・ウムラ相に任命(第128、138号)

・カサビー社会問題相を同ポストから解任し、商・投資相に任命(第131、135号)

・ムクビル運輸相を解任し、スライマーン・アブドゥッラー・ハムダーン(民間航空庁長官)を同相に任命(第130、137号)

 

人事異動(王族)

・トゥルキー・ムハンマド・サウード=カビール(外務省次官、大サウード家)を国王顧問(閣僚級)に任命(第139号)

・ハーリド・サウード・ハーリド(外務大臣補、第5世代、故ファイサル国王の曾孫)を王宮 府顧問(特級)に任命(第140号)

・ムハンマド・サウード・ハーリド(外務省次官、第5世代、故ファイサル国王の曾孫)を諮 問議会議員に任命(第141号)

・バンダル・サウード・ムハンマド野生動物局総裁を同ポストから解任し、王宮府顧問(特級) に任命(第142、143号)

・ファイサル・ハーリド・スルターン(第4世代、故スルターン皇太子の孫)を王宮府顧問(特級)に任命(第144号)

・ムハンマド・アブドゥルラフマン・アブドゥルアジーズ(第3世代、アブドゥルラフマン元副国防相の子)を王宮府顧問(特級)に任命(第145号)

・アブドゥルアジーズ・サウード・ナーイフ(第4世代、故ナーイフ皇太子の孫)を内務省顧問(特級)に任命(第146号)

 

人事異動(その他)

・ムバーラク通貨庁(SAMA)総裁を解任し、アフマド・アブドゥルカリーム・フライフィー(SAMA副総裁)を同総裁(閣僚級)に任命(第155、156号)

・サアド・ナーシル・シャスリーを王宮府顧問(閣僚級)および大ウラマー評議会議員に任命(第148、149号)

・ジャーシル王宮府顧問(元経済・計画相)を同ポストから解任し、閣僚評議会事務局顧問(閣僚級)、競争評議会議長、電力・淡水化局理事会議長に任命(第150、151、173、174号)

・ハティーブ王宮府顧問(元保健相)を同ポストから解任し、閣僚評議会事務局顧問(閣僚級)およびエンターテイメント庁理事会議長に任命(第152、153、175号)

・ファキーフ総監査局総裁を解任し、フッサーム・アブドゥルムフシン・アンカリー(諮問議会議員、財務委員会委員長)を同総裁に任命(第157、158号)

  

評価

 今回の行政改革・人事異動で最も大きな注目を集めたのは、ヌアイミー石油相の異動であろう。もっとも、80歳を超えている同相の異動は以前から予想されていたものであり、また、サウジアラムコの会長であるファーリフ保健相が同ポストを後継したのも、順当な変化であった。サルマーン体制下では既に石油省の改革が進められ、かつて石油相が有していた権限の多くは経済・開発評議会の議長でありアラムコ最高評議会の議長も務めるムハンマド・サルマーン副皇太子に移されている(詳細は「サウジアラビアの王族内における権力の分有」『中東分析レポート』No.R15-04(2015年12月22日)を参照)。その点で、今回の人事異動がサウジの石油政策の変化の兆しと読み取るのは、時期尚早であるように思う。むしろ、他の行政改革や人事異動を見ても、投資や小巡礼(ウムラ)の重視など、王宮府からの声明にあるとおり、「ビジョン2030」で示された経済改革を動かしていくための措置として見るのが妥当であろう(「ビジョン2030」については「サウジアラビア:2030年までの経済改革計画「ビジョン2030」を発表」『中東かわら版』No.19(2016年4月26日)を参照)。電気・水省が廃止となり、労働省と社会問題省が統合したことで省の数は2つ減ることになったが、それに伴う人事異動は最小限に抑えられており、主眼は内閣改造よりも行政改革にあったことが窺える。

 王族関連の人事では、ジュベイル外相、マダニー外務担当国務相に次ぐ、外務省のNo.3に位置していた王族が全て異動することになった。外務省の次官級は7人もおり、そもそも組織として肥大化していたという状況があったが、今次人事異動がどのような意味を持つかは未だ明確ではない。顧問職に就けて実務から遠ざけようとしているのか、あるいは側近として重用する心積もりなのか、判断が分かれよう。他方、ファイサル・ハーリド・スルターン、ムハンマド・アブドゥルラフマン・アブドゥルアジーズ、アブドゥルアジーズ・サウード・ナーイフの3人は、サルマーンも属するスデイリ・セブンの家系であり、近親の王族を遇しているという見方もできる。

 その他の人事で目を引くのは、ジャーシル元経済・計画相、ハティーブ元保健相が王宮府顧問から閣僚評議会事務局顧問に異動になったことである。国王が首相を兼務しているサウジアラビアにおいて、この人事異動が実質的にどのような意味合いを持つのかは現時点では不透明である。しかし、同時に別の実務の役職が与えられたことから、顧問という立場は単なる名誉職ではなく、両名が実務面において采配を振るうことを期待されていると見ることができよう。

 今回の行政改革・人事異動が目的とする改革を推し進めるものになるかは、今後の展開を注視する必要はあるが、これまで硬直気味であったサウジの政治構造が非常に早いペースで変化していることは間違いない。改革が経済的な効果を生み出すまでには時間を要するだろうが、政府は今後もこうした動きを加速させていくであろう。

(研究員 村上 拓哉)

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