中東かわら版

№20 イスラーム過激派:「イスラーム国」の生態:漁業と中古車販売による収入獲得

 4月29日付の『DailyMail』(イギリスのタブロイド紙)は、イラク中央刑事裁判所の報告書に基づき、イラク北部にて、「イスラーム国」が収入源として漁業や中古車の販売をしているとして以下の通り報じた。

 

  • 「イスラーム国」はイラクで、石油収入の減少の穴埋めとして、中古車の販売、バグダード北部の湖地帯での魚の養殖や漁で、一月あたり数百万ドルを得ている。
  • 占拠地域の住民に対する電力配分に厳しい規定を設けるほか、戦闘員の賃金カットを余儀なくされている。
  • 「イスラーム国」は農地に税金を課すほか、占拠地域外からもたらされる鶏肉やその他の物品に10%の税金を課している
  • 複数の魚の養殖場の所有者が逃亡する一方、「イスラーム国」からの攻撃を回避するために、彼らと協力することに合意する者がいる。
  • 「イスラーム国」が占拠した地域内で、イラク政府所有の車を販売したり、同政府所管の工場を活用することで、新たな収入源を得ている。
  • 依然として、シリアの精製所で生産される石油の密輸は、同派の主要な収入源である。
  • 資金は、モスル北部にある同派の財務省で取りまとめられ、そこから各州に分配される。各州への分配にあたり、アルビルで資金の名義が書き換えられた後、非占拠地域に送金され、それから各州へと分配される。

評価

 今般の報道のように、「イスラーム国」の収入が減少しているとの報道は、日々散見される。こうした報道が増加の傾向にあることは、「イスラーム国」を取り巻く環境の悪化を示唆しており、今回の記事ではそうした環境の悪化に適応しようとする「イスラーム国」の試みの一端が現れているように見える。中でも、漁民からの収奪に関して言えば、以前に類似の行いがされていたかは定かではないが、できるだけ占拠地域から資源を収奪しようとする彼らの意図が垣間見える。イラク政府が所有していた車の販売や、工場の活用にも同様のことが言えよう。

 

 また、非占拠地域を通じて資金の名義が変更される点に関していえば、地元の住民が「金儲け」を目的に関与していると思われる。実際、イラクのビジネスマン、銀行家や両替商は、自らの越境的な金融ネットワークを駆使して、「イスラーム国」が行う送金に関与して利潤を得ているとされる。イスタンブールー(アルビルを経由)ーモスル、ファッルージャー(バグダードを経由)ーアンマン、ラッカートルコ南東部都市のガズィアンテプのルートを通じて、「イスラーム国」の送金は行われているという[The Wall Street Journal, Feb, 24]。「イスラーム国」が各州に資金を配分するにあたり、資金の名義変更のために、このルートを利用している可能性は大いにあるだろう。

 

 石油が未だに「イスラーム国」の主な収入源とされることから、同派の占拠下に置かれる石油の関連施設に対する有志連合等からの空爆は継続するだろう。それに伴い「イスラーム国」を取り巻く環境も変化していくだろう。こうした環境の変化に対して今後、「イスラーム国」がどのように適応しようとするのか、注目に値するところである。

(イスラーム過激派モニター班)

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