中東かわら版

№17 GCC:米国との首脳会談において安全保障協力を進展させることで合意

 4月21日、オバマ米大統領がリヤードを訪問し、米・GCC首脳会談が開催された。これに先立ち、4月20日には米・GCC国防相会談が実施されている。会談では、中東地域の安定に関する米・GCC間の立場の調整や、「イスラーム国」、アル=カーイダといった過激派への対処、イランの地域政策への対応、米・GCC間の安全保障協力について協議された。

  

評価

 今回の首脳会談は、昨年5月にキャンプ・デービッドで実現した米・GCC首脳会談において開催が決定されていた会談である(昨年の会談については「GCC:キャンプ・デービッドで米・GCC 首脳会談」『中東かわら版』No.20(2015年5月15日)を参照)。米・GCC関係については、サウジ主導のイエメン空爆による民間人への被害の拡大や、サウジ・イラン間の対立の深まり、9.11同時多発テロ事件におけるサウジの関与を示す米国の文書の公開を巡ってサウジ高官が米国内の資産を売却すると述べたと報じられるなど、特に米・サウジ関係が悪化しているという見通しが伝えられていた。

 しかしながら、発出された共同声明を読む限りでは、米国とGCCの関係は、安全保障協力を一層進展させることで合意しているといえる。米国が、GCC諸国への外部からの攻撃を抑止するという立場にあることは今回も繰り返し表明されたが、今回の声明で特徴的だったのは、GCC諸国による外部・内部脅威への対処能力を向上させることで、米・GCCが一致したことだった。声明では、GCC諸国が地域の問題においてより大きな役割を担う能力を強化することで協力を進展させていくと述べており、そのための手段として、特殊部隊の創設を米国が支援することが謳われた。また、2017年3月には、米・GCC間で合同軍事演習を実施することが決定された。更には、GCC諸国における経済の多角化、効果的なガバナンスの提供、原油価格の下落と人口構成の変化による問題に関し、米国が支援をしていくこと、そしてこれに関して2016年内に米・GCC間での閣僚級対話を実施することでも合意した。そして、二者間で毎年首脳会談を開くこと、作業部会の会合は少なくとも年に2回開くことも決定した。

 共同声明にあるとおり、米国とGCCは、シリア紛争においてはアサド大統領を排除した移行政権の樹立を唯一の解決法としており、イエメンについてもハーディー政権の復帰とフーシー派の武装解除を目標とすることで一致している。また、イランの核合意については「歓迎」しつつも、イランによる弾道ミサイル実験、シリア、イエメン、レバノンといった地域におけるテロ組織への支援は、地域を不安定化させる試みであるとして非難するということにも変わりはない。前日の国防相会談では、米・GCCがイランによるフーシー派への武器支援を防ぐべく、共同で海上警備を行うことでも合意している。米・GCC関係は、目標達成に至るまでの手段に関して複数の大きな意見の相違があるものの、その協力関係は戦略的なものであり、一時的な問題で左右されることのない制度的な関係として定着しつつあるといえよう。

(研究員 村上 拓哉)

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