中東かわら版

№18 イスラーム過激派:「イスラーム国」の占拠地域内での営み

 4月21日付のスプートニクニュース(ロシアの通信社)は、「イスラーム国」の占拠下に置かれたシリアのダイル・ザウルで、数年間暮らしたシリア人男性1名とのインタビューを要旨以下の通り報じた。

 

  • 「イスラーム国」は、占拠地域外への住民の移動を禁じている。重病の病人は渡航許可をヒスバ(「イスラーム国」の風紀取締り機関)から得て、200ドルを「イスラーム国」に支払えば同伴者と共にが占拠地外へと移動できる。一方、構成員と住民の間では買収が横行しており、金銭さえ払えば、許可証を得ることが可能である。この許可証があれば、「イスラーム国」の全ての検問を通過できる。 
  • 「イスラーム国」はマヤーディーン市である人物を処刑し、死体を広場に吊るした。夜になって、家族がこの死体を片付けたが、翌日「イスラーム国」の者が家族らの腕を切断した上、墓を掘って死体を取り上げ、道に投げ捨てた。
  • 女性は黒色の服で全身を覆い、親類の同伴がいない限り外出は許されず、屋外で野菜を買うこともできない。上級の構成員がある既婚女性を気に入った場合、その夫を逮捕し、背教者であるとして離婚させる。
  • 多くの「イスラーム国」の構成員は10回以上結婚をしている。「イスラーム国」は結婚ジハードを呼びかけており、娘を渡さない家の者は罰則を科される。結婚ジハードを拒んだ女性は、石打ちの刑に処される。
  • 未婚女性と未亡人を「イスラーム国」の戦闘員と結婚させるための事務所が作られている。そこでは、女性の名前、住所、男性に求める条件が登録され、男性がそのリストに応じて結婚したい女性を探す。女性を最優先で割り当てられるのは常にサウジ人で、その次はリビア人である。
  • 老人ホームにいた軍人・非軍人の退職者らは、2~3ヵ月間、どこだか分からない場で、研修を受けさせられた。その内容は、ムハンマド・アブドゥルワッハーブ(注:いわゆる「ワッハーブ派」の主唱者)についての学習であったものの、イスラームとは無関係だった。老人達の一部は、教化と訓練を完了するためにイラクに送られている。
  • 若者のうち、顎鬚を剃ったり、喫煙、夜間徘徊、かかとの露出などの規則に違反した者は、罰則として戦闘地域での穴掘りを命じられる。拒否した者は銃で殺害される。その死体は、犬に食われるか、水に流されて処理される。
  • 何が違反かは、ヒスバの構成員の気分次第であり、違反に特定の規則があるわけではない。

 

評価

 「イスラーム国」が自派の占拠地域内でいかに蛮行を働いているかを積極的に暴露しようとする媒体は多々ある。当然、そうした媒体の目的の一つが、「イスラーム国」のプロパガンダを批判することであるのは想像に難くなく、それゆえにそこで発信される情報は誇張、脚色、ひいては事実無根であったりする可能性が高い。今回の報道も、内容に鑑みるに「イスラーム国」に敵対的な立場を取っているとみられ、その分、内容の正誤の判断にはインタビュー形式であろうと慎重を要する。

 とはいえ、「イスラーム国」の内実を把握しようとするにあたり、「イスラーム国」、そして彼らと敵対・競合する主体が繰り広げる広報上の戦いに目を向けざるを得ず、この意味で今般の記事からは、そうした戦いの一端をうかがい知ることができると思われる。  一方、今般の報道は、他の媒体が発信する情報と重複する部分が多いのも事実である。特に女性の外出禁止や住民の占拠地域外への移動の禁止、違反者への罰則の規程の曖昧さ、そして結婚斡旋所の設置などは、これまで指摘されてきたところである。これは、「イスラーム国」を敵視する媒体が、何の根拠もないまま情報を発信しているのではなく、これまで言われてきた情報を、ある程度取り入れていることを示唆している。

 また、「イスラーム国」が若者に労働(穴掘り)をさせたり、悔悟として退役軍人を取り込んで教化・訓練を施しているという指摘は、仮に事実だとすれば興味深い。これは、「イスラーム国」側の人材の需要と自らの意思で判断して同派に加わる地元住民の供給が合致していないため、「イスラーム国」が強制的に地元住民を自派に取り込んでいることを示唆している。「イスラーム国」がモノやカネといった資源だけでなく、ヒトという資源を占拠地域から強制的に収奪している一面が想起できる。 また、ヒスバの構成員が地元住民を違反とみなす基準が、各人の裁量に任せられているという指摘にも同様のことが言える。「イスラーム国」が自派の戦闘員を管理し、体系的な占拠地域の運営をしていないことを示唆していると思われる。

 いずれにせよ、「イスラーム国」と彼らの占拠地域の関係は、収奪する者とされる者の関係であり、後者が納得する形で関係が形成されているわけではないといえる。こうした枠組みに基づいて、「イスラーム国」を敵視、批判する旨の情報も増えていくものと思われる。

(イスラーム過激派モニター班)

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