中東かわら版

№15 イスラーム過激派:「イスラーム国」の収入大幅減か

 4月18日、IHS(アメリカの調査会社)は「イスラーム国」の一月あたりの収入が減少したとして要旨以下の通り報告した。

  •  2015年中盤、「イスラーム国」の月当たりの収入は約8000万ドルだったが、2016年3月には5600万ドルまで減少した。 
  • 月収のおよそ半分は(占拠地域の住民に課す)税金や収奪によるもので、43%が石油収入、残りは麻薬や電気の販売、喜捨であった。
  • 「イスラーム国」の占拠地域は22%ほど減少した。これに伴い占拠下に置かれる住民はおよそ900万人から600万人に減少した。
  • 「イスラーム国」は、輸送車の運転手、破損したパラボラアンテナの修繕やアンテナの新規設置を希望する者、居住地を離れようとする者から税金を徴収している。また、車両の通行車線を違反したりコーランの質問に答えられない者には罰金を科すほか、地元住民に喜捨を募っている。
  • ハッド刑については、その執行の代わりに罰金を科している。
  • 石油の生産量は、有志連合の空爆によって2015年夏の日量3万3000バレルから2万1000バレルに減少した。 
  • 「イスラーム国」の関心は石油の即時現金化であるため、石油の生産量の低下にもかかわらず、販売価格を引き上げていない模様である。

評価

 「イスラーム国」の財政事情が悪化していることは、これまでも様々な媒体が指摘してきた。今回の報告書は、アメリカを中心とする有志連合による空爆を主因として、「イスラーム国」の占拠地域の縮小、財政の悪化、住民や戦闘員の占拠地域からの逃亡が発生していると説明している。また、こうした周囲の環境の悪化に対する対応として、「イスラーム国」は占拠地域の住民からより金銭を収奪しようとしたり、現金欲しさに価格を据え置きして石油を密売しているとの記述がある。中でも特筆すべきは、これまで「イスラーム国」が自らの理想を体現するために実践していた筈のハッド刑といったイスラームに基づく営為が、地元住民から金銭を巻き上げる手段へと変化したとする点であろう。  こうした営為は、占拠地域の住民や戦闘員に対する自派の正当性を示すためのものであるほか、アル=カーイダなどの諸勢力との間で展開される競合関係の文脈では、支持や資源を獲得するための極めて重要な要素と思われる。 しかし、今回の報告書にあるように、パラボラアンテナの設置を課税対象とすることは、つまりは金銭さえ払えば衛星放送の視聴を許していることを意味するため、最近『ヒンマ文庫』が刊行した衛星放送禁止のパンフレットの内容(『中東かわら版』No.189)と明らかに矛盾している。ハッド刑による罰金徴収に関しても同様の矛盾が指摘できる。 今回の報告書にあるような対応が「イスラーム国」の占拠地域で広範に生じているとすれば、それは彼らの理想や世界観そのものと直結する事態であり、自己否定にも繋がりかねない。地元住民、支持者や戦闘員からの支持や名声の低下をもたらすことが予想される。 今後も「イスラーム国」を取り巻く環境が悪化し続けるのであれば、その影響は戦場の選択や戦闘の方法から広報の内容まで多方面に広がると思われる。これに伴い、彼らがこれまで広報活動を通じて世界中に伝えてきた自らの理想や世界観と現実との不一致が顕著に現れてくる可能性は一層高くなる。

(イスラーム過激派モニター班)

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