中東かわら版

№13 サウジアラビア・イラン:産油国による原油増産凍結交渉が失敗

 4月16日から17日、OPEC加盟国を含む産油国16カ国がカタルのドーハに集まり、原油価格の下落を防ぐべく、石油増産凍結措置について協議した。交渉では合意の草案作成にまで進んでいたものの、サウジアラビアなど湾岸諸国が協議への参加を拒否したイランが合意に参加することを要求したため、交渉は決裂した。カタルのサーダ・エネルギー産業相は、6月のOPEC会合に向けて更なる協議を継続していくと述べた。

  

評価

 2月にサウジ、ロシア、カタル、ベネズエラの4カ国の主導で提案された2016年1月の原油生産量の水準で原油増産の凍結を行う措置については(詳細は「サウジアラビア:ロシア、カタル、ベネズエラと原油増産の凍結で合意」『中東かわら版』No.170(2016年2月17日)を参照)、早くからイランが不参加を表明しており、合意に至る可能性が低いことが指摘されていた。1月に制裁解除になったイランは国策として原油増産を進めることを公言しており、制裁中のため減産状態にあったイランにとって2016年1月の水準で増産凍結を行うことは到底許容しがたいものであった。このため、イランに合意への部分的参加を求めるべく特別措置を講じる可能性も検討されていたようであり、交渉直前には合意を楽観視する見方も広がっていたものの、交渉前日にイランは協議に参加しないことを決定し、「全OPEC加盟国の合意への参加」を求めるサウジが非妥協的な立場を交渉で貫いたため、合意には至らなかった。

 これを受けて、原油価格(WTI)は40ドル台から37ドル台後半まで急落したが、19日15時現在(日本時間)、原油価格は40ドル台前半まで回復してきている。これはクウェイトにおいて石油企業の職員らがストライキを行っていることによりクウェイトの原油生産量が280万バレルから110万バレルまで一時的に減少したことも関係しているが、中長期的な観点からは、今回の交渉で原油増産凍結措置について合意に至るかどうかは市場に大きな影響力を与えるものではなかったことが指摘できよう。現在の原油市場の需給バランスは、約200万バレルの過剰供給状態にある。増産の凍結措置は原油の供給量には変化がないということであり、こうした需給バランスの不均衡は維持されることになる。そのため、短期的には原油の過剰供給状態は解消されず、原油価格を上昇させる要因としては弱い。しかし、各産油国は市場のシェアを維持するべく増産を続けてきたため、各国の余剰生産能力は頭打ちになりつつある。そのため、例えばOPEC諸国では、2016年1月に3244万バレルの原油生産量を記録したが、2月、3月の生産量は3224万バレル、3225万バレルと、合意の有無に関わらず1月の生産量を維持ないし下回る水準で推移しており、供給面でこれ以上の増産を行える産油国はない。2016年の世界経済が想定どおりの3%成長を維持するならば、原油の需要は2015年同様約100万バレル増加することになるため、需給バランスは締まることになる。

 例外は、現在の原油価格では新規開発の採算が取れないシェール石油を多く抱える米国を除くと、サウジアラビアとイランである。サウジアラビアは2015年から約1000万バレルの生産量を維持しているが、最大生産能力は1250万バレルあると見積もられており、さらに250万バレル増産する余力がある。一方、制裁によって280万バレル前後まで原油生産力を落としていたイランは、制裁前の生産量360万バレルを超えて、2016年末までに400万バレルの生産量を目指すと公言していた。サウジアラビアのムハンマド・サルマーン副皇太子は、4月14日のインタビューにおいて、「もし我々が望めばすぐに1150万バレルまで、そして6‐9カ月以内に1250万バレルまで増産することができる」と述べ、イランに増産凍結合意に加わるように強く要請したのは、その他の産油国が原油増産凍結で合意してもイランが増産を続けるのであれば需給バランスの不均衡が続くからだ。

 もっとも、サウジが1000万バレルの生産量を維持しているのは、原油価格の更なる下落を防ぐための自発的な措置であり、イランが増産を続けることでサウジが対抗して増産を行う蓋然性は低い。制裁解除によるイランの増産は2016年の原油需給バランスの見通しにおいても前提のものとして織り込まれており、イランの増産によって更なる値崩れが発生することはないだろう。むしろ、3月のイランの生産量は330万バレルであり、当初の想定より増産ペースは遅いくらいだ。

 今回の交渉においてサウジがイランの包含に拘ったのは、こうした経済的な要因よりも、外交的な対立が主因である可能性がある。4月15日にトルコのイスタンブルでイスラーム協力機構(OIC)の首脳会合が開かれたが、イランによる地域諸国への内政干渉を非難するという最終声明が採択された。イランがOICの加盟国であり、会合にはロウハーニー大統領が参加していたことを考えると、これはイランにとって非常に厳しい内容であった。サウジアラビアは、こうした外交政策によってイランを地域で孤立させようと試みており、サウジとイランの対立の構図が原油政策を巡る交渉にも持ち込まれたものと見られる。

(研究員 村上 拓哉)

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