中東かわら版

№62 シリア・トルコ:トルコの「イスラーム国」対策

 7月23日以降、トルコ軍がシリア領内の「イスラーム国」、クルド民兵の拠点や、イラク領内のPKKの拠点への爆撃を開始した。また、トルコ政府はアメリカ政府に対し、トルコ国内の空軍基地を「イスラーム国」への爆撃のために使用することに同意した。一連の動きは、トルコ政府がこれまで黙認してきた「イスラーム国」に対する政策を転換したかのように見える。これは、同政府が7月20日にスルチで発生した自爆攻撃を「イスラーム国」の仕業であると断定したことを契機としている。トルコ政府は、国内でもPKK容疑者多数と、「イスラーム国」への合流に関係した外国人ら若干を逮捕している。

評価

 本稿執筆時点で、「イスラーム国」はスルチの事件についても、トルコ軍との交戦についても一切情報を発信していない。この点から、「イスラーム国」がトルコを攻撃対象とする意志はさほど高くないと見られる。一方、トルコ軍・政府の動きを見る限り、トルコがアメリカなどと一致して「イスラーム国」対策やシリア紛争、イラク情勢への対処に乗り出したとも考えにくい。トルコは、「イスラーム国」やシリア紛争への対応で独自の情勢認識に基づき、自国の利益を追求し続けるのではないだろうか。今後のトルコの出方で焦点となるのは、シリア領に飛行禁止地帯を設定したり、地上部隊を派遣してシリア領内に「安全地帯」を設けたりするかである。ただし、飛行禁止地帯も「安全地帯」も、「イスラーム国」、クルド民兵、シリア政府からトルコが後援する「ヌスラ戦線」、「アフラール・シャーム」などの武装勢力諸派を保護し、彼らの活動の聖域とするためで、これがシリア紛争の被災者の救済や紛争の収束に貢献する保証はない。また、トルコが国際的な「イスラーム国」対策で最も期待されていることは国境管理や出入国管理に努めて「イスラーム国」への資源の流入を阻止することであるが、トルコが「ヌスラ戦線」などを後援し続ける限り、一定の割合で資源が「イスラーム国」に流出し続けることが予想される。

 一方、トルコが「イスラーム国」と本格的に対峙するならば、同国内に拠点とネットワークを確立した「イスラーム国」がトルコ国内で攻撃に出る可能性も否定できない。「イスラーム国」は、最近トルコ語の機関誌を発行するなど、トルコに対する脅迫に無関心なわけではない。「イスラーム国」がトルコに対して攻撃を仕掛ける場合、トルコ経済に打撃を与えるため、トルコ国内の著名な観光地で外国人観光客を巻き込む攻撃をかけることが懸念されている。

(イスラーム過激派モニター班)

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