中東かわら版

№50 エジプト:ヒシャーム・バラカート検事総長暗殺

 6月29日午前、カイロのヘリオポリス地区でヒシャーム・バラカート検事総長を狙ったと思われる爆破があり、バラカート検事総長が死亡した。現地報道によると、自宅から出てきた検事総長が車に乗り、発車したところ、近くに停車していた車が爆発し、検事総長の車が被害を受けた模様。検事総長が死亡したほか、護衛や運転手など9人が負傷した。

 2013年7月のクーデター以来、治安当局を狙ったテロ事件が多発しているが、政府高官が実際に暗殺されたケースは今回が初めてである。30日現在、今回の事件について犯行声明等は出されていない。

評価

 クーデター以来テロ事件が増加している理由は、イスラーム過激派やムスリム同胞団員が、軍がムルシー政権を強制的に追放し、ムスリム同胞団員を恣意的に逮捕した上で正当な手続きを取らずに裁判にかけることに反発しているためである。ただし、イスラーム過激派は民主主義という「世俗的制度」を受け入れたムスリム同胞団を批判するため、イスラーム過激派とムスリム同胞団は同一の政治的立場にいるわけではないが、現政権が「無実のムスリムを強権的に暴力を使って迫害している」という見解では一致している。彼らの主な攻撃対象は兵士や警官だが、ムルシー大統領やムスリム同胞団員への死刑判決が多数下される最近では、司法府も攻撃対象となっている。シナイ半島で活動する「シナイ州」(元の名前は「エルサレムの支援者団」、「イスラーム国」を支持)は、裁判官を殺害した映像を配信したこともある。

 現在のところ、今回の事件について犯行を認める声明はいかなる団体からも出されていないが、司法府の一翼を担う検察局のトップが暗殺対象となったこと、ムルシー大統領を追放した「6月30日革命」の日に合わせたように事件が起きたことを踏まえると、実行犯はこれまでテロ事件を起こしてきたイスラーム過激派やムスリム同胞団の若手グループと考えられる。

 政変以降初めて政府高官が暗殺されたことで、シーシー政権の「テロとの闘い」は強硬路線を維持ないし強めていくだろう。テロ事件の背後にムスリム同胞団が存在するという政府内の見解はますます推進力を得て、ムスリム同胞団に対する取締りは続き、幹部メンバーには重い実刑判決が下されることが予想される。ムスリム同胞団の若手グループは暴力主義路線に走っており、テロ事件に関与しているといわれている。しかし、政府の同胞団に対する弾圧はむしろ暴力主義に傾倒する者を増やし、イスラーム過激派に人的資源を提供しているという側面もあるということを認識しなければならない。

(金谷研究員)

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