中東かわら版

№170 サウジアラビア:ロシア、カタル、ベネズエラと原油増産の凍結で合意

 2月16日、サウジアラビア、ロシア、カタル、ベネズエラの4カ国が、原油生産量を2016年1月の水準で凍結することで合意した。他の産油国にも同様の措置をとることを求めており、カタルのサーダ・エネルギー相は、「イランとイラクを含めたこれらの諸国が提案に合意すれば、これは履行される」と述べた。また、サウジのヌアイミー石油相は、「これは(原油価格安定のための)プロセスの始まりであり、数カ月の間状況を注視した後、市場を安定させるための更なる措置を行うかどうかを決定する」と述べている。

  

評価

 今回の合意は、2016年1月の生産量を水準としてこれ以上の増産を防ぐものである。現在の原油の需給バランスは、供給過剰となっており、需要を約200万バレル/日ほど上回っている。2014年6月以降原油価格は下がり続けているが、各国は自国の市場を維持するために増産を続け、この1年半の間に世界全体の原油供給量は400万バレル/日ほど増加している。既に供給が需要を超過している状態での生産量維持となるため、短期的には今回の合意によっても需給バランスの不均衡は是正されることはないだろう。他方、増産の凍結が履行されるのであれば、原油価格の下落には一定の歯止めがかかることが期待される。

 もっとも、この合意内容は、1月に制裁解除が決定したイランにとって極めて不利なものである。2月14日、イランのジャヴァーディー副石油相は、イランの原油生産が40万バレル/日増加したと発表し、更に20万バレル/日の増産を(近日中に)実現すると述べた。制裁下においても280万バレル/日の生産を続けていたイランは、これからも増産の継続を予定しており、2016年末までに420万バレル/日の生産量を達成することを目標にしている。イランのザンギャネ石油相は、今回の合意について慎重な態度を示しつつも「イランは市場シェアを諦めることはない」と明言している。他方、イラクは2015年に原油生産量を大きく回復させており、2016年1月の原油生産量はこれまでで最大となる480万バレル/日(クルド自治区を含む)となった。イラク石油省の関係筋は、今回の合意に参加する用意があると述べており、イランはOPEC内で孤立する恐れがある。

 地域情勢の面では、シリア情勢を巡って激しく対立するサウジアラビアとロシアの間で、こうした協調が成立したことが興味深い。原油価格の下落以降、サウジアラビアが減産に同意しない理由の一つとして、シリアで対立するロシアに経済的打撃を与える意図があることが指摘されてきた。昨今のシリア情勢がサウジアラビアにとって厳しい方向に流れているなか、今回の合意に至ったことは、石油政策を左右する要因としてはかつてのような政治的動機よりも、経済的動機による要因の重要性が増していることを示していよう。

(研究員 村上 拓哉)

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