中東かわら版

№169 イラク:クルド地区の財政危機

 2016年2月15日、アバーディー首相はクルド地区の政府の財政危機により同地区の公務員の給与支払いがおよそ半年に渡って未払いとなっている問題について、クルド地区が独自に石油を輸出することを止めるならば連邦政府がその給与を支払うと提案した。クルド地区政府は2014年以来財政危機に直面し、2016年はじめに公共部門の職員に対し最大75%の給与引き下げをせざるを得なくなっている。また、スライマーニーア県、アルビル県などで2015年秋以来の給与遅配と今般の給与引き下げに抗議するデモやストライキが広がっている。財政難の主な理由は、クルド地区政府が独自にトルコ向けの石油パイプラインを敷設したため連邦政府が連邦予算の配分を停止したことや、石油価格の急落である。

 なお、16日付『ハヤート』紙によるとクルド地区からは2016年1月の平均値で日量約60万バーレルの石油をトルコに輸出している模様であるが、これはクルド地区内の油田で生産したものと、2014年6月以降にクルド政府が制圧しているキルクークの油田で生産された石油である。

評価

 イラクのクルド地区については、最近同地区のマスウード・バラザーニー大統領が2016年末ごろまでに独立を問う国民投票の実施を主張するなどイラクの将来像を巡り物議をかもしている。その一方で、クルド地区そのものの政治・経済情勢も極めて不安定な状況にある。そもそも、バラザーニー大統領自身が2015年秋に任期を満了したものの、後任の大統領の権限とその選出を巡ってクルドの諸政治勢力間の対立が高じ、次の大統領が選出できないでいる。これと並び、内閣・議会も諸政治勢力間の対立のため混乱している。ここに、最近顕在化した石油価格の低下が追い討ちをかけ、クルド地区政府の財政に深刻な危機を生じさせているのである。

 クルド地区政府やクルド地区は、混乱が続くイラクの連邦政府や弱体なイラク軍と比べて安定した政情・軍事力を享受していると考えられ、「イスラーム国」との戦闘でも重要な役割を果たすことが期待されている。しかし、過去一年間の政治・経済危機は、クルド地区の政治情勢や経済の基盤について常に楽観視できるとは限らないことを示しているといえよう。

(髙岡上席研究員)

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