中東かわら版

№164 サウジアラビア:シリアへの地上軍派遣を巡る報道

 2月4日、サウジアラビア国防省の大臣室顧問であり、イエメンに軍事介入する連合軍の報道官であるアシーリー准将は、『Al-Arabiya』のインタビューにおいて、サウジ軍のシリアへの派遣の可能性について言及した。同准将は、「シリアにおいて国際的な連合が地上作戦を行うのであれば、サウジアラビアはそれに参加する用意がある」と述べている。これに対し、カーター米国防長官は、歓迎の意を表明した。

 サウジに続き、7日にはUAEのガルガシュ外務担当国務相が、UAEにもサウジ同様の用意がある旨を表明した。バハレーンは、5日にファッワーズ駐英大使の名前で同種の声明が発出されたが、8日、ハーリド外相は『RT』のインタビューに対して、同大使の発言は「バハレーンが地上軍の派遣を計画しているものでも、派遣する用意があることを示すものでもない」と述べている。

 

評価

 各種報道では、サウジを始めとした湾岸諸国によるシリアへの地上軍派遣が取り沙汰されているが、既に各所から指摘されているとおり、これは湾岸諸国がシリアへの軍事介入を主導して行うという主旨のものではない。アシーリー准将の発言にあるとおり、米国主導の連合軍が地上作戦を行うのであれば、そこにサウジ軍を参加させることができるというのがサウジの立場であり、作戦の主体となるのはあくまで連合軍だ。従って、連合軍の派遣とそれへの参加が大前提である以上、サウジ軍が「イスラーム国」ではなくアサド政権打倒のために戦闘を行う可能性がある、サウジ軍にはシリアに独自に部隊を派遣するだけの能力はないといった議論は、事態の趨勢を見極めるにあたり本質的な論点になりえない。カーター米国防長官が即座に歓迎の意を表明したことに表れているように、これは欧米諸国が主導してきた軍事作戦への現地諸国の負担を増やすという文脈で解釈されるべきであろう。

 もっとも、このタイミングでサウジからこうした提案が公に表明された背景には、ロシアの支援によりシリア政府軍が北部のアレッポで反体制派への攻勢を強めていることに大きな懸念を抱いているからであろう。ロシアによるシリアへの軍事介入は、「イスラーム国」以上にサウジが支援する反体制勢力に打撃を与えており、現状がこのまま推移すればサウジのシリア政策は完全に破綻しかねない。

 8日、サウジのジュベイル外相はケリー米国務長官と会談し、シリア情勢について協議しているが、これは11日にミュンヘンで開催される予定の国際シリア支援グループ会合に先立ち、米国・サウジ間でロシアへの対応を調整するためのものと見られる。サウジの提案はかねてからの米国の要請に応えるものであり、現実的な部隊派遣を検討しているというよりも、同盟国として米国の立場を支援することで交渉を優位に進めようとする思惑があろう。

(研究員 村上 拓哉)

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