中東かわら版

№150 イエメン:サウジ軍機によるイラン大使館爆撃情報

 2016年1月7日、イランの外務省は同国の駐イエメン大使館が爆撃を受け、職員が負傷したと発表した。イラン側は、爆撃はサウジが意図的に行ったものであると主張、爆撃は外交団の安全についての諸国際法に違反しサウジ政府が被害の責任を負うと非難した。一方、2015年3月以来イエメン紛争に軍事介入する連合軍は爆撃について、「調査の結果大使館とその周辺で作戦は行われていない上、大使館も被害を受けていない」との声明を発表、イランの主張を「虚偽」と退けた。事件の詳細については、大使館付近にミサイルが着弾、その影響で大使館の警備員が負傷したものとも言われている。

評価

 現時点の情報は、大使館を狙った爆撃はなかったことを示すものである。その一方で、サウジ、イランを含むイエメン紛争の諸当事者が発信する情報はいずれも自らの立場を有利にするためのプロパガンダとしての性質を帯びるものであり、諸当事者の意図や事件の真相については慎重に分析すべきであろう。イラン側については、大使館の被害を強調してサウジとの対立で非難材料を得ようとしているだろうが、連合軍(サウジ)側は、かねてよりイエメンのハーディー前大統領派がイランによる干渉を非難、駐イエメン・イラン大使館を干渉の拠点であると主張してきた。また、連合軍の爆撃の質についても、ヒューマンライツ・ウオッチなどの人権団体が軍事施設との証拠がない対象も攻撃していると非難しており、「適切な対象を適切に攻撃している」とは言い難いものである。実際、連合軍が野外で行われた結婚式(2015年9月28日)、「国境なき医師団」の施設(同10月27日)を爆撃したとの情報が相次いでいるが、連合軍側はそのつど関与を否定している。

 今般の事件については、これをきっかけにサウジとイランとの対立がさらに激化し、双方の軍事衝突が発生したり、石油価格が高騰したりすることが懸念されるかも知れない。しかし、現時点での両国の対応を見る限り、そのような事態に至る可能性は低いと思われる。イランは事件についてサウジを非難する一方、これを直接の理由とする対抗措置を発表していない。また、サウジ寄りのアラビア語の各種報道機関は、『エコノミスト』誌が掲載したムハンマド・ビン・サルマーン副皇太子のインタビューを引用し、サウジの側に緊張を激化させた責任はないと強調している。

 その上、サウジとイランの両国にとって、石油の生産や供給に悪影響を与えるような行動に出ることは、共に石油の供給国として顧客の信用を失いかねない、まさに体制の存亡に関わる危機につながる可能性がある。両国が常識的な思考の下で事態に臨んでいるならば、直接の軍事衝突のような措置に出ることは考えにくい。また、双方、或いは第三者に緊張の更なる激化やサウジ・イラン間の軍事衝突を狙った挑発や突発的な行動に出る主体があったとしても、それに過剰に反応することがないように対処することが、サウジ、イランの両政府と「国際社会」に望まれることであろう。

(髙岡主席研究員)

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