中東かわら版

№122 レバノン:ベイルートのダーヒヤ地区で自爆攻撃

 2015年11月12日夕方、ベイルート南部のダーヒヤ地区のブルジュ・バラージュナ街区で自爆犯2名による自爆攻撃が発生、40名以上が死亡、200名以上が負傷した。この事件について、「イスラーム国 レバノン」名義の犯行声明が出回った。

画像:「イスラーム国 レバノン」名義の犯行声明。

 声明は、攻撃場所を「ラーフィダ(=シーア派の蔑称)であるヒズブ・アーラート(注:イスラーム過激派やそのファンたちは、シーア派の団体であるヒズブッラーの名称に「アッラー」との文言があるのを嫌い、様々な蔑称で同派を呼称する。上の呼び方もそのひとつ)の拠点」と認識し、攻撃対象も多神教徒/背教者のラーフィダとみなしている。その一方で、2名の自爆犯については単に「カリフの兵士の一人、殉教の騎士の一人」と呼び、彼らの呼び名や映像を公表しなかった。また、シーア派に対する復讐が済むまで攻撃がやむことはないと脅迫した。

評価

 ジャジーラTVの報道によると、2014年1月2日にダーヒヤ地区で発生した自爆攻撃について「イスラーム国」が犯行声明を出しているが、今回のような名義で声明が出回るのはおそらく初めてである。また、2014年1月21日にも同地区で爆破事件が発生しているが、こちらについては「レバノンのヌスラ戦線」名義の犯行声明が出回った。同地区での直近の爆破事件は、2014年6月23日に発生した事件である。

 

これまでレバノンでの「イスラーム国」や「ヌスラ戦線」の活動は、近隣諸国での活動に比べれば小規模で報道機関からの注目も高くはなかったが、シリアの首都のダマスカスの西方の山岳地域での活動のための兵站拠点として上記の二団体をはじめとする武装勢力諸派が活動している。特にレバノン北部のトリポリや北東部のシリアとの国境近くでは、「イスラーム国」や「ヌスラ戦線」が関与する戦闘・攻撃・治安事案が連日発生している。また、2014年夏に「イスラーム国」や「ヌスラ戦線」がレバノン軍兵士多数を誘拐した事件も、現在まで未解決である。

 これまでの活動内容からみると、レバノンで「イスラーム国」などが大規模な攻撃を繰り返したり、領域を占拠したりする戦術に出る可能性は高くないと思われる。しかし、過去数日、シリアのアレッポ周辺でシリア軍が「イスラーム国」、「ヌスラ戦線」に対して戦果を上げており、イスラーム過激派とその支持者だけでなく、サウジなどからシリア軍の攻勢にイラン兵とヒズブッラー兵が参加しているとの非難があがっている。シリアで活動する武装勢力諸派は、権益や資源を巡って相互に抗争する関係にある一方で、シリア軍とその支援者に対しては、現場レベルでの連携や、シリア各地で諸派が協調しているかのような一斉攻撃や錯乱作戦が見られる。このため、ロシア軍の介入が本格化した後シリア軍が攻勢を強めている現状に鑑みれば、レバノンにおいてもイスラーム過激派がヒズブッラーを牽制・錯乱するための行動を起こすことに警戒が必要であろう。

(イスラーム過激派モニター班)

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