中東かわら版

№120 カタル:外国人労働者へのスポンサー制度(カファーラ)の改正

 10月27日、タミーム首長は、外国人労働者へのスポンサー制度、通称カファーラ制度について定めた「外国人の出入国・居住・スポンサーシップ法(2009年法第4号)」を改正し、新たに「外国人の出入国・居住法(2015年法第21号)」を公布することを承認した。カファーラ制度とは、外国人労働者がカタルで就労する際、雇用者による保証を必須とするものである。同制度の下では、外国人労働者はカタルを出入国するために雇用者の許可を得なければならず、また、就労先を変更することも認められてこなかった。

 新法では、これらの制度がいくつか改定された。まず、出国の申請については、雇用主ではなく内務省に提出することになった。出国が認められなかった場合、申請者は新法の下設置される苦情処理委員会に異議申し立てを提出することができる。また、労働者は、当初の契約が終了した後、別の仕事に就労することが認められるようになった。これまでは、別の勤務先での就労を希望したとしても、前の雇用者の許可がない場合、2年間カタルに入国することが認められなかった。

 

評価

 カタルは人口約230万人のうち、自国民は約28万人程度であり、インド人やネパール人など、南アジア、東南アジア、中東諸国からの外国人労働者に強く依存する社会となっている。しかし、2022年のサッカーW杯がカタルで開催されることが決定してから、同イベント開催準備のための建設現場などで外国人労働者が厳しい労働環境で働いている実態が国際社会に広く知られるようになり、カファーラ制度はその象徴として問題視されるようになった。雇用主側の権限が著しく大きい同制度の下では、労働者のパスポートが雇用主に取り上げられたり、賃金の不払いや延滞が生じたりしても、労働者はカタルで就労を続けるためには雇用主に従わなければならず、異議申し立てを行うことが出来ないという状況が蔓延していた。

 今回の改正については、かつての「奴隷」的な制度から決別するものであると評価する声もあるが、形式的な改正に過ぎないとの批判的な声も人権団体を中心に強い。外国人労働者による出国の申請先は内務省になったものの、内務省は雇用主と協議して許可の発出を検討することができ、実質的には何も変わっていないと指摘されている。また、就労の自由についても制限はかかったままであり、労働者が雇用主や勤務先を自由に選べる状況とは程遠い。外国人労働者の人権状況が抜本的に改善されない限り、同問題を巡る国際的な論争は今後も継続するであろう。

(研究員 村上 拓哉)

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