№86 エジプト:マフラブ内閣総辞職、シャリーフ・イスマーイール新内閣の発足
9月12日、マフラブ内閣が総辞職した。10月からの議会選挙を控えた状況での総辞職である。マフラブ首相自身は2013年7月のクーデター後に発足したビブラーウィー内閣で住宅相を務め、2014年3月から首相に任命され内閣を率いていた。
同日、シーシー大統領は石油相のシャリーフ・イスマーイールを次期首相に任命し、19日、イスマーイール内閣が発足した。全閣僚33名のうち新入閣は16名、前マフラブ内閣からの留任者は17名である。閣僚リストは以下のとおり。
(※左欄に「新」の記載がない者は前マフラブ内閣からの留任)
首相 |
シャリーフ・イスマーイール |
前石油相 |
国防相 |
シドキー・スブヒー |
軍人(大将) |
計画・行政改革相 |
アシュラフ・アラビー |
|
ワクフ相 |
ムハンマド・グムア(ジュムア) |
|
青年・スポーツ相 |
ハーリド・アブドゥルアジーズ |
|
住宅・公共施設・スラム街相 |
ムスタファー・マドブーリー |
|
供給・国内貿易相 |
ハーリド・ハナフィー |
|
電気・再生エネルギー相 |
ムハンマド・シャーキル |
|
財務相 |
ハーニー・カドリー・ディミヤーン |
|
社会連帯相 |
ガーダ・ワーリー |
女性 |
民間航空相 |
フサーム・カマール |
|
環境相 |
ハーリド・ファフミー |
|
外相 |
サーミフ・シュクリー |
|
灌漑・水資源相 |
フサームッディーン・ムガージー |
|
考古学相 |
マムドゥーフ・ダマーティー |
|
投資相 |
アシュラフ・サルマーン |
|
内相 |
マグディー・アブドゥルガッファール |
|
法相 |
アフマド・ジンド |
|
地方開発相 |
アフマド・ザキー・バドル |
新/元教育相(2010-2011)、元国民民主党員 |
観光相 |
ヒシャーム・ザウズーウ |
新(再)/元観光相(2012-2015) |
高等教育・科学研究相 |
アシュラフ・シャイヒー |
新/前ザガジーグ大学学長 |
法律・議会担当相 |
マグディー・アガーティー(アジャーティー) |
新/現国家評議会立法局長、元最高行政裁判所裁判官 |
軍需産業担当国務大臣 |
ムハンマド・アッサール |
新/前国防相補佐 |
農業・土地開墾相 |
イサーム・ファーイド |
新/アイン・シャムス大学教授 |
保健・人口相 |
アフマド・イマードッディーン・ラーディー |
新/元アイン・シャムス大学医学部長・付属病院長 |
教育・技術教育相 |
ヒラーリー・シャルビーニー |
新/マンスーラ大学副学長 |
運輸相 |
サアド・ギユーシー(ジユーシー) |
新/元道路・橋庁長官 |
国際協力相 |
サハル・ナスル |
新/女性、元世銀アナリスト |
文化相 |
ヒルミー・ナムナム |
新/元国立図書館・公文書館長 |
通信・情報技術相 |
ヤーシル・カーディー |
新/前情報技術産業開発庁長官 |
石油・鉱物資源相 |
ターリク・ムッラー |
新/前石油公社総裁 |
労働力相 |
ガマール・スルール |
新/前労働力省事務次官 |
貿易・産業・中小企業相 |
ターリク・カービール |
新/元ペプシ社中東アフリカ部門社長 |
移民・在外エジプト人担当国務大臣【新設】 |
ナビーラ・マクラム |
新/女性、前ドバイ領事 |
評価
議会選挙を1カ月前に控えた時期に内閣総辞職となった理由には、最近、メディアをにぎわした官僚組織の汚職問題や社会サービスの質の悪さがある。ここ数カ月、全国の公立病院の不衛生さを写真で暴露したフェイスブックのページが話題となり、保健省の保健衛生行政の杜撰さが明らかとなった。さらに9月初旬には、農業大臣が実業家への不正な土地売却で賄賂を要求し受け取った事件が発覚し、大臣は辞任のうえ逮捕された。このような状況においてマフラブ首相がシーシー大統領に内閣の定例報告を行ったところ、大統領は内閣のパフォーマンスに不満を示したという。おそらく、議会選挙を控え、クリーンで国民のために質の高い社会サービスを行う政府というイメージを取り戻すために、シーシー大統領は内閣改造ではなく総辞職という大掛かりな手段に出たのではないかと思われる。
しかし、こうした思惑でイスマーイール新内閣の組閣を行っている最中に、西方砂漠でエジプト軍がメキシコ人観光客をテロリストと誤認して殺害する事件が発生し、シーシー政権の国際的信用が傷つきうる事態となった。同事件は現在も調査中で、国内でも大きな関心事項となっているようだが、現在のところ、事件がシーシー政権及び新内閣への支持に大きくマイナスの影響を与える雰囲気はない。依然として、国民の多数が「テロとの戦い」を勇猛果敢に行う軍を支持しており、誤爆・殺害事件は政権への支持を揺るがす要因にはなっていない。むしろ国民の真の関心は社会・行政サービスの質の向上、腐敗や汚職の撤廃、生活の安定(雇用、収入)にある。この点を改善できるかどうかがシーシー政権とその内閣の安定を決めるだろう。
(研究員 金谷 美紗)
◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/