中東かわら版

№76 シリア:ロシアの軍事的関与

 8月26日付のシリアの『ワタン』紙(政府寄りの民間日刊紙)は、シリアへのロシアの軍事的関与について要旨以下の通り報じた。注目点は以下の通り。

  • ロシアは紛争勃発以来シリアでの軍事作戦への参加を自重してきたが、昨今シリア・ロシア合同軍事委員会が編成された。ロシアの専門家たちがシリアを訪問し、ジャブラ(ラタキア県)に新たな基地を設置する可能性を検討している。
  • 最近ロシアはシリアに対しMig-31戦闘機6機を納品した。これは2007年に締結された契約に基づく。同型機は迎撃機であり、(現在の紛争での)戦闘に使用可能な機種ではない。
  • ロシアはシリアに対し、(軍事作戦用の)衛星写真の提供を始めた。イスラーム過激派の戦闘員には既にNATOがリアルタイムの衛星写真を提供している。NATOは「イスラーム国」に衛星写真を提供していないものの、シリアにおけるアル=カーイダである「ヌスラ戦線」には衛星写真を提供している。
  • ロシアの軍事専門家が、国連の傘下で国際部隊を展開させる可能性について情報収集をしている。ロシア政府は彼らからの報告を基に、ロシア単独での任務の実施や「集団安全保障条約機構」(加盟国:ロシア、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタン)の合同任務についても検討するであろう。なお、「集団安全保障条約機構」諸国の部隊の展開は、2012年に「ジュネーブ1」会議が開催された際にも取りざたされた。

評価

 『ワタン』紙の性質上、内容が極めて親シリア的で信憑性・現実性を欠く部分があることは否めない。特に、シリアがMig-31を入手したとの情報が事実だとしても、トルコ、イスラエルをはじめとする外部からの爆撃にシリア軍が有効な迎撃・反撃を行う可能性は極めて低い。また、NATOの衛星写真の提供についての部分も、現時点では具体的な証拠は挙がっていない。その一方で、この記事はシリア紛争に対するロシアの軍事的な関与が依然として深いことを示しており、特にロシアが国連や「集団安全保障条約機構」による部隊派遣について調査しているとの点は興味深い。こうした動きは、欧米諸国、トルコ、アラブ諸国などの紛争当事国が地上部隊の派遣のような紛争解決・治安維持に必須となるであろう活動に消極的な中、紛争解決の試みのひとつとして具体化することも考えられる。

(主席研究員 髙岡 豊)

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