中東かわら版

№65 シリア・イラク:「イスラーム国」の生態(結婚契約事務所の運営)

8月2日、イラク・ニナワ州の名義で同地の結婚契約に関する映像が配信された。内容は以下のようにまとめられる。

  • ニナワ州のイスラーム法廷により同法廷所管の結婚契約局の設置が決定された。
  • 同局を通じて、男性の登録や結婚契約などの業務が行われる。
  • 対象者:全てのムスリム。
  • 登録の流れ:申請者(男性)の所有資産の申請→写真撮影→裁判官らによる審査→書類作成係に情報が提出された後書類作成→結婚契約局へ書類提出→申請者の血液検査→登録完了。
  • 結婚契約の流れ:新婦側のワリー(妻の父親。結婚契約時の新婦側の法定代理人)、新婦、新郎、2名の証人の参加をもって結婚契約が行われる。ワリーの署名がない結婚契約は無効。

 なお、同事務所を通さない結婚契約は無効で、法廷が法定代理人を用意することも可能。これまでの結婚契約数は1万6千件に上る。第二~第四妻との結婚も合法であり、暴君共が一夫多妻制を妨害してきた。アタチュルクがその際たる者である。二人以上妻を迎えようとする者が増加している。なお、映像には女性は一切登場しておらず、女性がどのようにして手続きをするのかは不明。

評価

  今回の映像は、イスラーム法に沿った結婚契約の締結を導入・運営していると主張する内容で、一見すると「イスラーム国」が占拠した地域で着実に「統治」を行っているかのような印象を受けるが、婚姻関係の分野でニナワの社会に混乱が生じていることを反映していると考えることもできる。

「イスラーム国」の占拠地域における女性の処遇は、構成員の性的欲求の充足や、復古主義的な服装や行動の規制を重視したものが目立つ。2014年夏のヤジーディー教徒に対する奴隷制の発表はその際たる例であるし、「イスラーム国」の占拠地域から逃亡した女性が報道機関に語る性被害の話は枚挙に暇が無い。

写真:「イスラーム国」が着用を義務付けた「正しいヒジャーブ」

 今回の映像からも、そうした女性の性被害や抑圧についての懸念材料を読み取ることができる。主なものは、4人の妻を娶ることが合法化されていることと、ワリーは代用可能であることである。「イスラーム国」は一夫多妻を推奨し、複数の妻を取る男性の数が増加したと主張している。また、結婚契約事務所が彼らの主張どおりに運営されているならば、両親を自国に残して「イスラーム国」に移住した男女の結婚が容易になると思われる。特に外国から「イスラーム国」に合流した女性の場合、法的代理人はイスラーム法廷で用意できるため、「イスラーム国」が構成員を勧誘し、惹きつける手段としての結婚契約が増加する恐れがある。

「イスラーム国」はこのような行為をイスラームの実践と主張するであろうが、同派が管理する結婚を通じた女性の性被害が今後ますます広がっていくことが想起できる。

(イスラーム過激派モニター班)

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