中東かわら版

№64 アフガニスタン:ターリバーンのウマル師の死亡と後任任命

 2015年7月30日、ターリバーンはウマル師が死亡したと発表した。声明は、ウマル師がいつ、どこで、どのように死亡したかを明らかにしなかったが、「ウマル師は(アメリカの侵攻以来の)過去14年間、アフガニスタンの外にいたことはない」、「過去二週間で健康状態が悪化した」との文言を含んでいる。これは、アフガンの治安機関がウマル師は2年前にパキスタンで死亡したと主張していることを否定する内容である。

 また、7月31日には指導評議会が有徳者らとの会合でターリバーンの幹部のアフタル・ムハンマド・マンスール師をウマル師の後任としてイスラーム首長国の指導者に任命し、同人を信徒の長として忠誠を表明したと発表した。これに加え、指導評議会はハイバトッラー・アフンドザーダ師とシラージュッディーン・ハッカーニー師の両名をイスラーム首長国の副首長に任命した。

評価

 ウマル師の死去は、ターリバーンという運動、ひいてはアフガンの情勢の将来に大きな影響を与えかねないできごとである。同師の死去が、「イスラーム国」がウマル師やターリバーンの存在意義を否定し、アフガンにおけるイスラーム過激派の戦果や業績を簒奪しようとする中でのできごとだったことが象徴的である。一部には、ターリバーンとパキスタンの情報機関との関係、アフガン政府との和平交渉に不満を持つ構成員が、ターリバーンを離れるのではないかとの予想も出ている。その一方で、「イスラーム国」がターリバーンの民族主義・地元志向を非難してその正統性を攻撃しているのに対し、「イスラーム国」側の主張はアフガンの現地事情や住民の心情を慮ることなく(イスラーム過激派としての論理的な)「きれいごと」を押しだしているだけに過ぎないと考えることもできる。当座は新指導部下のターリバーンが求心力を維持するだけの戦果を上げられるかが焦点となろう。

 これに加えて、アル=カーイダがビン・ラーディン、ザワーヒリーなどが、ウマル師に忠誠を表明してきたことも見逃すことはできない。ザワーヒリーらアル=カーイダは、「イスラーム国」との競合での劣勢、アメリカ軍の空爆による広報部門の壊滅など苦境に立たされているが、彼らがイスラーム過激派として自らの立ち位置を確定させるためには、ターリバーンの新指導部に忠誠の表明をするのか否かを明確にしなくてはならない。

(イスラーム過激派モニター班)

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