中東かわら版

№59 UAE:燃料価格の自由化

 7月22日、エネルギー省は、8月1日からガソリンやディーゼル燃料の価格を国際市場価格に連動したものとする方針を明らかにした。UAEでは燃料価格は固定化されており(例えば、オクタン価95のガソリン価格は1リットルあたり1.73ディルハム(0.47ドル))、実際の費用との差額分は政府の補助金によって賄われていた。今後、エネルギー省次官を議長とし、財務省次官、ADNOC Distribution社CEO、Emirates National Oil Company(ENOC)社CEOをメンバーとする燃料価格委員会が組織され、毎月28日に翌月の燃料価格を国際市場価格の平均と操業コストに基づいて決定することになる。

 マズルーイー・エネルギー相は、同政策は長期的な視点から検討されてきたものであり、収入源の多角化、経済の強化、競争力の増加、政府の補助金に頼らない強い経済の実現というUAE政府の戦略ビジョンに沿ったものであると強調した。また、同エネルギー相は、自由化により燃料価格が上昇することで燃料の消費が抑制され、自然資源の保護や、省エネ自動車の普及促進、公共交通機関の利用促進などが期待できると述べた。

 

評価

 燃料への補助金の廃止は、UAEのみならずペルシャ湾岸諸国において課題とされてきた問題であった。財政の健全化の観点からは補助金の廃止が望まれ、IMFや世界銀行はたびたび湾岸諸国に対して補助金廃止を要請してきていた。特に、昨年から大幅に石油価格が下落したことを受け、補助金制度の見直しについて議論が活発になっていた。他の湾岸諸国に比較して高い燃料価格を設定していたUAEでは、連邦国家議会から石油価格が下落したのに国内の燃料価格が低下しないのはなぜかとの質問書がエネルギー省に提出されるなど、制度見直しの機運が高まっていた。

 他方、補助金の廃止は、国民の生活に直接打撃を与える問題でもある。湾岸諸国において補助金制度の見直しが進んでいない理由は、家計が圧迫されることで国民の不満が増大し、2011年の「アラブの春」のときのような政府批判が高まることを恐れているからであろう。UAEは一人当たりGDPも高く、国民への影響も限定的であることから、今回の決定に踏み切れたのだろう。同様の議論はクウェイトやオマーンでも進められているが、議会の反対にあい、頓挫してきた。今後、UAEの動きが他の湾岸諸国にも波及していくことが予想される。

(研究員 村上 拓哉)

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