中東かわら版

№55 リビア:トリポリ政府抜きで、諸勢力が国連仲介の政治合意案に署名

 7月11日、モロッコで行われていた国連仲介のリビア停戦対話において、戦闘の停止と国民合意政府の結成を謳った政治合意案が暫定署名された。国連リビア支援ミッション(UNSMIL)のベルナルディノ・レオン特使が仲介役となり2014年9月から停戦対話が開始され、今年3月からはモロッコで、リビアの東西両政府代表団(東部トブルクの代表議会、西部トリポリの国民議会)が対話に参加してきた。

 政治合意案は、統一政府(国民合意政府)を作ることで、東西に分裂し内戦に陥ったリビアに平和を取り戻すことを目的としているが、今回の暫定合意は肝心の国民議会が欠席したまま行われた。国民議会は合意案の一部修正を求めていたが、修正要求が反映されないまま国連から合意文書案が提示されたため、対話を欠席した。署名式に参加したのは、レオンUNSMIL特使、代表議会代表団、地方議会(ミスラータ、セブハ、ズリテン、トリポリ中央、ムサラータ、アジュダービヤなど)、正義建設党党首、国民勢力連合幹部、市民社会組織、モロッコのメズワール外相、モロッコ上下院議長、駐モロッコ各国大使(米、英、EU、加、仏、独、伊、露、ポルトガル、スペイン、トルコ)だった。 

政治合意の主な内容

  • リビアの統一、首都トリポリ、戦闘の停止
  • 代表議会――移行期における唯一正統な立法府
  • 国民合意政府――首相、副首相2名、その他閣僚。任期1年(更に1年延長可)
  • 国家最高評議会――国の最高諮問機関。国民合意政府が代表議会に提出する法案や国際的合意に対して、法的拘束力のある意見を提示できる。委員120名(90名=国民議会議員、30名=名望家、公人、市民社会組織メンバー、部族、女性、若者など)は、停戦対話に参加した諸派が協議で決定する
  • 国民合意政府、国軍、警察、治安諸機関は、国連や国際社会の支援とともに、武力紛争を停止する(民兵組織の撤退・非武装化、テロ対策など)
  • 憲法起草委員会は、代表議会及び国家最高評議会の諮問に応じて、憲法草案を完成させる

 

評価

 レオンUNSMIL特使は、政治合意案が署名されたことは、リビアの平和のための「大きな一歩」であると評価した。しかし、リビアを東西に分割して戦う一方の勢力である国民議会が合意していない停戦案が、リビア和平にどれほどの実行力を持つのか大きな疑問が残る。

これまでモロッコで行われてきた数度の対話で、代表議会と国民議会はそれぞれ、国民合意政府においてどのように権力を分有するか意見を対立させ、合意案が修正されてきた。両者が完全に納得できる合意案を作ることは難しいため、レオン特使は、リビアの国家が完全に機能停止を起こす前に、なかば強引に、すなわち国民議会が対話を欠席しているとしても政治合意を暫定的に成立させ、国民議会に同案への合意圧力を掛けようと考えたのかもしれない。その証拠に、今回の合意は「暫定」であり、レオン特使は今後も対話は国民議会に開かれていると述べており、全勢力と協議してから最終合意の署名を行うようである。なお国民議会は、2014年11月に出された最高裁判決(代表議会の正統性の一部否定)を合意文書に反映させること、東部・リビア国民軍のハリーファ・ハフタル総司令官の軍事的・政治的役割を排除することを求めている。

 仮に国民議会が合意したとしても、最も不安な点は戦闘の停止を実現できるかという問題である。東のリビア国民軍と西のリビアの夜明け部隊は、共に「イスラーム国」支持勢力(「バルカ州」、「トリポリ州」)を脅威と見なすようになっており、「イスラーム国」撲滅作戦では共闘できるかもしれない。しかし、両勢力とも軍事面で民兵組織に依存しており、民兵組織の解体、国軍・警察への統合には強い反対がある。戦闘停止を実現するためには、まずは戦闘に関与している諸武装勢力の間で信頼醸成を進める必要がある。

(研究員 金谷 美紗)

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