中東かわら版

№37 トルコ:大国民議会議員選挙(総選挙)の実施(2)

 

 6月7日(日)に行われた総選挙で、政権与党に就いて以来3期12年にわたり過半数を獲得してきた公正発展党(AKP)の得票率は初めて過半数を割りこんだ。選挙終了後、エルドアン大統領は野党に対し、トルコの内政安定のために責任ある対応を求めるコメントを発表した。

 8日(月)、エルドアン大統領とダウトオール首相は会談を行った。この会談の中で首相は、自身の責任を認め辞任する意向を示し、エルドアン大統領も原則了承した。トルコの憲法では大統領は中立であることが求められており、政党に属することは認められていないにもかかわらず、その大統領職にあるエルドアンが選挙戦スタート後、「党の顔」としてAKP支持を求める演説をトルコ各地で行っていたこと、ダウトオールを首相に指名したのもエルドアン大統領であったことから、首相だけでなく大統領に対する責任を問う声が野党のみならずAKP党内からも上がっている。

 

評価

 現時点での獲得見込議席数でAKPが安定した政権運営を維持するには、解散総選挙を除けば他の政党と連立を組むのが最も有効な打開策である。仮に大統領が第一党の党首に組閣を命じて45日以内にそれが行われなかった場合、憲法の規定に則り再度解散総選挙を行うという手もあるが、再選挙を行ったとしてもAKPが過半数を獲得できる可能性は極めて低いばかりか、さらに議席を減らす恐れもある。

 6月12日現在、AKPは最大野党である共和人民党(CHP)、民族主義者行動党(MHP)との連携を模索しているという報道がなされている。

 CHPとの連立を行った場合、AKPとCHPとの合計獲得議席数は最大で389議席が見込まれることから総議席数の2/3以上を得ることが出来る。連立を組むCHPとしても、建国の父アタテュルクが創設し、最も長い歴史を持つ政党であるだけに、与党の座に返り咲きたいという思惑はあるだろう。しかし、中道右派で親イスラームのAKPと、中道左派で建国以来の世俗主義を貫くCHPとでは党の方針も、政党支持層も異なり、CHPが連立に参加した場合、元来有している支持基盤を失う可能性がある。また、政権運営についてもどのように折り合いを付けていくのか疑問が残る。

 他方、MHPは右派であり、イスラームに価値基準を置くという意味ではAKPと共通点が多いが、クルドの権利や文化を認めておらず、停滞気味であったとはいえ、エルドアン大統領が中心となって進めてきたクルドとの和解交渉が暗礁に乗り上げる可能性がある。イラクのペシュメルガがトルコ経由でシリアへ入国することにも徹底的に反対してきた。また、今回の総選挙でMHPが得票率を伸ばした要因の一つに、クルド系政党の人民の民主主義党(HDP)の躍進をこころよく思わない有権者の票が流れたとの見方もあり、MHPが絶対に歩み寄ることのできないクルドとの和解交渉をAKPはどのように進めるのか、舵取りが注目される。

 さらに、6月12日、バフチェリMHP党首は、選挙で負けたのだからエルドアン大統領も退くべきだと発言しており、連立を組む条件としてエルドアンの退陣を求める可能性もある。いずれにしてもトルコの内政安定のために早期に決着を図ることが望ましい。

(研究員 金子 真夕)

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