中東かわら版

№20 GCC:キャンプ・デービッドで米・GCC 首脳会談

 5 月 14 日、オバマ米大統領の招待により、キャンプ・デービッドで米・GCC 首脳会談が開催 された。GCC 側からは、ムハンマド・ナーイフ皇太子(サウジ)、サバーフ首長(クウェイト)、サルマーン皇太子(バハレーン)、タミーム首長(カタル)、ムハンマド・ザーイド皇太子(UAE)、ファハド副首相(オマーン)が出席した。会合では、米・GCC 間の安全保障協力、地域情勢へ の対応について協議された。会合後に発出された共同声明の概要は以下のとおり。

  • 米国は、政治的な独立、領土の保全、外部の攻撃からの安全という GCC 諸国の国益を共有する。湾岸戦争のときと同様に、湾岸地域の核心的利益を守るためあらゆる力を行使し、我々の同盟国やパートナーへの外部からの攻撃を抑止し、対抗するという米国の政策に変わりはない。
  • 「決意の嵐」作戦と同様に、GCC 諸国が国境を越えて軍事行動をとる計画を立てる際には、米国と協議する。
  • 新たな米・GCC 戦略的パートナーシップとして、武器移転の迅速な追跡、対テロリズム、海洋安全保障、サイバーセキュリティー、ミサイル防衛について協力を強化していく。
  • イラン核交渉の包括的かつ検証可能な合意は、GCC 諸国、米国、国際社会の利益である。
  • イランの地域を不安定化させる行動には反対であり、共同して対処していく。
  • ISIL/ダーイシュおよびアル=カーイダへの対テロ協力を強化する。
  • イエメン情勢は、GCC イニシアチブ、国民対話、関連する安保理決議に基づく、GCC が主催するリヤードでの会合および国連による交渉を通じて、政治的に解決する必要がある。
  • イラク政府および国際的な有志連合による ISIL/ダーイシュとの戦いを支援していく。
  • GCC 諸国とイラク政府との関係強化が重要である。昨年の夏に合意されたあらゆるイラク社会の勢力の正当な不満に応え、全ての武装勢力をイラク国家の厳格な制御下に置く国民和解の達成を進めていく。
  • シリアにおいて、アサド(大統領)の正統性はなく、将来における役割もない。ISIL/ダーイシュを弱体化させ、最終的には撲滅する努力を増加させる。また、ヌスラ戦線のような他の過激派の影響力に警告する。
  • リビアの全ての勢力に、国連が提案している合意を受け入れるよう要請する。
  • イスラエル・パレスチナ紛争では、2002 年のアラブ和平イニシアチブ、二国家解決案の重要性を強調する。2014 年 10 月のカイロ会議で約束されたガザ復興の達成を継続する。
  • レバノンで新たな大統領の選出が遅れていることに懸念を表明する。憲法に基づき、議会が大統領の選出を進めることが重要である。
  • 米・GCC の戦略的パートナーシップを発展させるため、2016 年にも同様のハイレベルの会合を開催する。

評価

 イラン核交渉の進展により GCC 側が抱えていた不安を解消するために開かれたキャンプ・デ ービッド会合は、米・GCC の安全保障協力を深化させることで一致した。GCC 側が求める安全 保障協定の締結を米国が見送ったことから、サウジアラビアのサルマーン国王が不満の表明の ため会合を欠席したことが注目されたが、共同声明および附属書を読む限り、それなりに踏み 込んだ内容の合意が形成されたと考えられる。

 声明では、イランを名指しで批判し、GCC への「外部からの攻撃」に対して、「湾岸戦争と同 様に」軍事力を含むあらゆる手段を米国が行使する用意があることが表明された。附属書では、アラブ連盟で提案された「アラブ合同軍」の役割を考慮に入れながら、緊急展開能力の発展に 関するワーキング・グループを設立することが決定されたとなっており、米・GCC 間の軍事協力は新たな段階に突入したことを示している。ミサイル防衛、軍事訓練、武器移転、海洋安全 保障の分野における協力においても、より一層の協力強化が謳われている。

 地域情勢の文脈では、従来の見解が繰り返されたのみであったが、イエメン情勢やイラク情勢を巡り、米国を GCC の立場に引き寄せたことは、GCC 側としては外交的な成果であろう。また、全体としてイランの勢力伸張を警戒する内容となっていることも、GCC 側の要望に沿うも のであると考えられる。

 翌年にも同様のハイレベルの会合を開くことが発表されたが、年に 1 回、米・GCC の首脳レベルが会合を開催することが定例化されれば、その外交的な影響力は大きい。今回はサルマーン国王の不在に注目が集まったが、次世代を担うムハンマド・ナーイフ皇太子、ムハンマド・サルマーン副皇太子が参加したサウジ代表団は、実務的でハイレベルな代表団だったと評価でき る。UAE・オマーンの首脳が参加する可能性は当初からなかったことを考慮すると、クウェイト・カタルからは首脳が参加し、他の国からはナンバー2 が参加した今次会合は、開催に至っただけでも外交的な成果があったと言えよう。

(研究員 村上 拓哉)

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