中東かわら版

№18 イエメン:「人道停戦」の発効

 2015年5月12日深夜(現地時間)より、イエメンで人道停戦として援助物資などの搬入のための停戦が発効した。この停戦は、イエメンを爆撃するサウジなどの連合軍による提起をフーシー派が受け入れたことにより実現したものである。これを受け、国連安保理では停戦を歓迎し全ての紛争当事者に停戦尊重を呼びかける声明が全会一致で採択された。また、停戦発効に先立ち、国連のウルド・シャイフ・アフマド特使がサナア入りするなど、停戦を契機にした紛争の政治解決の動きも生じつつある。その一方で、5月以降サウジとイエメンとの国境をはさんで双方の砲撃合戦が激化したり、停戦発効を受けイランが援助物資を搭載した船舶をイエメンに向けて派遣するなど、停戦の破綻につながりかねない要素も依然として多い。

評価

 

 3月末のサウジなどによるイエメンへの爆撃開始以降、イエメンでは空港、港湾などの社会資本も爆撃の対象となるなど人道状況の悪化が進んでいた。また、「決意の嵐」作戦の終了宣言を受けても、アデンなどからはいまだにフーシー派やサーリフ元大統領派の排除が進んでおらず、サウジなどによる軍事介入の戦術的・戦略的・政治的目的が達成されたのか否か判然としない状態の中、北部のサアダ県などへと空爆の範囲が拡大する状況となっていた。しかも、「正統性の護持(=ハーディー前大統領派の復帰)」を大義名分としているにも拘らず、ハーディー前大統領を始め同派の幹部はいずれもイエメンに復帰できていない。

 このような事態は、軍事行動を主導するサウジ、これを支持するアメリカなどが、軍事行動によって達成すべき目標を明確にしないだけでなく、彼らの言う「正統性」を回復させた後のイエメンの統治・政治体制についてほとんど構想を持っていないことによって生じた。フーシー派やサーリフ元大統領派による軍事行動の激化は、イエメンの様々な政治・社会的勢力の間で2011年以来のイエメンの政治的移行の基礎となったGCC提案に基づく将来像の構築や権益の配分に失敗したことを原因としており、「正統性」回復を名分としてGCC提案に基づく移行体制に回帰したところで、イエメンの情勢が安定へと向かう保証はない。

 事態をさらに悪化させているのは、イエメン紛争についてサウジ対イラン、或いはスンナ派対シーア派の地域・国際紛争としての側面が強調されすぎていることである。サウジやイランを含む地域の諸国を包摂する政治・安全保障の仕組みづくりは、イエメン紛争だけでなくシリア紛争や「イスラーム国」問題への対処の上で必須ではあるが、有力国同士の競合や談合を優先することになると、イエメン人民の権益や、彼らが2011年以来払ってきた「民主化」や政治的移行のための努力や犠牲の意義を大きく損なうことになりかねない。

 また、イエメン国内での紛争当事者は、フーシー派、サーリフ元大統領派、ハーディー前大統領派だけでなく、南部の分離独立運動、諸部族、イスラーム主義者など多様である。ここに、「アラビア半島のアル=カーイダ」や「イスラーム国」の同調者のような破壊分子が加わって治安や人道状況の悪化が進んでいるのである。従って、停戦を和平や紛争解決、安定した政治体制の構築へとつなげる方途は、イラン(或いはサウジ)の干渉の触手を断ち切ったり、「独裁政権の残党」を排撃すればよいというような単純なものとは思われない。イエメンの諸政治勢力や各々を後援する諸国が、様々な紛争当事者をどのように排除・包摂するか、特に包摂や和解をいかにすすめるかとの発想に基づいて対応することが重要となろう。

(髙岡上席研究員)

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